「FINAL FANTASY VII EVER CRISIS」を支えたクライアントエンジニアによる開発の舞台裏
株式会社スクウェア・エニックスが企画・制作・運営し、株式会社アプリボットが開発を行う「FINAL FANTASY VII EVER CRISIS(ファイナルファンタジーVII エバークライシス)」が、2023年9月7日(木)にサービスを開始しました。
本インタビューでは「FINAL FANTASY VII EVER CRISIS」のクライアントアプリ開発に関わったエンジニアから、リリースに至るまでの開発プロジェクトの様子や、技術組織のありかた、開発基盤の構築について、エンジニア目線ならではの話を聞きました。
Profile
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小松原 啓史 (株式会社アプリボット)
2014年サイバーエージェント新卒入社。以降アプリボットに所属し、クライアントエンジニアを務める。「ジョーカー~ギャングロード~」、「ブレイドエクスロード」、「FINAL FANTASY VII EVER CRISIS」のクライアントエンジニアリーダーを担当。 -
小澤 駿 (株式会社アプリボット)
2015年サイバーエージェント新卒入社。アプリボットに出向し、クライアントエンジニアとして「グリモア~私立グリモワール魔法学園」、「ブレイドエクスロード」、「FINAL FANTASY VII EVER CRISIS」等の開発に携わる。
「FINAL FANTASY VII EVER CRISIS」開発の舞台裏
── 2人のエンジニアとしてのバックグラウンドを教えてください。
小松原:2014年にサイバーエージェントグループに新卒入社し、株式会社アプリボットに配属されました。入社後は、Cocos2d-xを使ったカードゲームの新規開発と運用に長く携わりました。2018年から3Dゲームの新規開発プロジェクトに参加し、そのタイミングでUnityエンジニアにキャリアチェンジしました。現在は「FINAL FANTASY VII EVER CRISIS(ファイナルファンタジーVII エバークライシス)」のクライアント開発責任者をしています。
小澤:私は2015年のサイバーエージェント新卒入社で、株式会社アプリボットに所属しています。入社後の3年間、アドベンチャーゲームの開発に関わり、クライアントのエンジニアリーダーを担当しました。その後、小松原と同じく3Dゲーム開発プロジェクトへの参加がきっかけで、Unityエンジニアにキャリアチェンジしました。「FINAL FANTASY VII EVER CRISIS」ではクライアントエンジニアを担当しています。
── アプリボットは2010年の立ち上げ以来、カードゲームから3Dまで様々なゲームを開発しています。近年は「FINAL FANTASY VII EVER CRISIS」をはじめとして大型IPタイトルの開発を手掛けています。エンジニアとして会社のチャレンジをどう捉えていますか?
小澤:アプリボットが手掛けてきたゲームは2Dから3Dまで、その表現手段や技術選定は様々ですが、一貫しているのは、アプリボットおよびゲーム・エンターテイメント事業部が手掛けてきた開発ノウハウや知見が、開発基盤として根底にある点です。
大型IPタイトルや新規事業など、会社としても大きなチャレンジをしていますが、これまで積み上げてきた事業経験 / 開発経験の延長線上にあるチャレンジとも言えます。
小松原:そして、国内/海外で特に人気の高い「FINAL FANTASY VII」シリーズというAAA (トリプルエー)タイトルを手掛けた事は、エンジニアとしても大きなチャレンジになりました。「FINAL FANTASY VII EVER CRISIS」では、原作を踏襲しつつもリッチでやりがいのあるダンジョン表現、リアルタイムコマンドバトル、マルチプレイ、スマホRPGらしいゲームループなど、リリース当初からたくさんのやりこみ要素があるゲームになりました。まさに、アプリボットとしての技術の集大成とも言えます。
私も初期段階から本プロジェクトに関わってきましたが、プレスリリース等を通じて膨らむユーザーのワクワク感やマーケットの期待感、プラットフォームの拡大やグローバル展開など、開発スケジュールの先にいろいろな未来が見えてきてやりがいを感じていました。同時に、クライアント開発責任者としてプレッシャーや責任感をヒシヒシと感じてもいました。
そんな状況の中、アプリボットが蓄積してきた技術資産やリソース、パフォーマンスチューニングなどの開発ノウハウや横軸組織のバックアップ体制など、大規模ゲーム開発を支える基盤の存在は、本当に心強かったです。
2023年9月に正式リリースを迎え、海外でも人気が出ていることは嬉しい限りです。
職種を語る前にプロジェクトを語れるような組織をつくる
── 「FINAL FANTASY VII EVER CRISIS」の開発を支えた組織的な要因を教えてください
小松原:1つは、アプリボットの経営理念でもある「世界を震撼させるサービスをつくる」ための、クリエイティブのクオリティを重視した開発体制です。その背景として、ユーザーが所有する端末機のハイスペック化もあり、クリエイティブのレベルがゲームのクオリティの根幹に関わるという現状があります。
ゲーム開発におけるクリエイティブの制作物は膨大で、世界観を形作るコンセプトアート、キャラクターモデル、UI/UX、エフェクト、背景、リギングやアニメーション、シナリオライティングなど数え上げれば無数にあります。エンジニアリングの役割はこれらクリエイティブをゲームに実装し、快適なプレイを実現する事です。
ともすると、クリエイターとエンジニアの間で分業から生じるミスコミュニケーションや、仕様の齟齬が発生しがちですが、大規模ゲーム開発に見合うプロジェクトマネジメントやエンジニアリングマネジメントを強化しました。加えて、アプリボットのメンバーは、職種を問わず良いゲームを作ろうという意識が強くあります。社内の共通標語に「職種を語る前にプロジェクトを語れ」とあるように、カルチャー的にも思考的にも柔軟性がある組織と言えます。
小澤:例えば、エンジニアだけではなくデザイナー、 クリエイター、プランナーも作業環境にUnityを導入し、プレハブやアセットの編集を行っています。同様にgitなどのバージョン管理ツールも基本的に全職種が行っています。職種問わず同じツールを利用することで、エンジニアリングのコミュニケーションコストを軽減する事で生産性を向上することができました。
このような組織マネジメントの強化と、企業カルチャーの特性は、リリース前のクローズドβテストなど、大きな壁を乗り越える際の原動力になりました。
小松原:大規模ゲーム開発という長いロードマップにおいて、αテストやβテスト, クローズドβテストは、リリースに至るまでの1つの山場と言えます。社内外のユーザーにテストプレイをしてもらう中で、開発陣が意図していたものと全く違うユーザーの反応やプレイ体験が返ってくる事もあります。
テストプレイ後のレビューでは本質を捉えた意見を多くいただきます。ご意見を真摯に受け止める姿勢だけでなく、作り上げてきたゲームを抜本的に変えていく勇気も時には必要だったりします。今回の「FINAL FANTASY VII EVER CRISIS」ではαテストやβテストで頂いたレビューに対して、現状の延長線上にある改善ではなく、飛躍的なクオリティアップをするため、開発体制やプロジェクトマネジメントを抜本的に変える事をしました。
もちろん、テストプレイができる段階での開発体制の変更は、スケジュールの大幅遅延が発生するリスクも生じます。その点、アプリボットの共通標語「職種を語る前にプロジェクトを語れ」が示すように「ゲームのクオリティ向上のために、自分がやるべき事は何か?」を軸に、メンバーがそれぞれ動けたのが印象的でした。
実際、私もインゲーム(バトルやダンジョンなどのメイン機能)から、アウトゲーム(メニューやプロパティ画面への遷移等)に所属が変わりましたが、工数や機能要件の整理などパフォーマンスが出しやすいチームサイズに適宜変更したり、他の子会社からのヘルプメンバーが入るなど、開発組織としてのスピード感や柔軟性の高さを実感しました。
小澤:プロジェクトの成功のために、所属が異なるエンジニアが、強みを活かして別のプロジェクトを支える企業カルチャーがありますよね。トップダウンの指示ではなく、エンジニア個々人が当たり前に協力し合えるので、大切にしていきたいカルチャーの1つだと思っています。
大規模ゲーム開発を支える技術的な資産とその横展開
── 「FINAL FANTASY VII EVER CRISIS」の開発を支えた技術的な要因についても教えてください。
小松原:「FINAL FANTASY VII EVER CRISIS」の開発を支えた要素の2つ目とも言えるのが、ゲーム・エンターテイメント事業部が蓄積してきた技術資産の横展開です。2022年に発足した「SGEコア技術本部」は、10以上のゲーム開発子会社に向けて開発効率と品質の最適化を提供しています。
本プロジェクトに関しては、ハイクオリティな3Dシーンがメインを占めるため、ゲームのロード時間短縮や負荷軽減を徹底する事が課題になりました。3Dアセットやクリエイティブデータを最適なデータサイズで管理できるようにするため、「SGEコア技術本部」が開発したチェッカーツール等を活用し、3Dアセットに問題があった場合に自動で検知できるようなワークフローを導入しました。
── 快適なゲームプレイを実現するためのパフォーマンス改善についてはどんな工夫をしましたか?
小松原:ゲームのパフォーマンスチューニングは、プロジェクトや子会社など所属を超えた共通課題として常に議論と試行錯誤を行っています。
そんな中、2022年10月にゲーム・エンターテイメント事業部が無償公開した「Unity パフォーマンスチューニングバイブル」は、まさに大規模ゲーム開発におけるパフォーマンスチューニングの課題とその解決策を、広く業界全体に共有するために発刊したものになります。
「Unity パフォーマンスチューニングバイブル」にも書かれている通り、パフォーマンスチューニングに近道はなく、ボトルネックが発生しがちなポイントに対して、計測と予防策を地道に講じていくのがセオリーです。「FINAL FANTASY VII EVER CRISIS」に関しても、実機端末で検証し、Unity Memory ProfilerやUnityHeapExplorer、内製ツールなどを用いてプロファイリングを行い、ボトルネックになっている箇所を特定し、改善策を試行錯誤する事の繰り返しでした。
小澤:「SGEコア技術本部」やゲーム・エンターテイメント事業部には「Unity パフォーマンスチューニングバイブル」の執筆陣だけでなく、Unityや3DCGに関する技術書を執筆するエンジニアが多数在籍していますし、技術書即売会イベント「技術書典」でも「UniTips」という、実際のプロジェクトで培った知見を元に、Unityでの開発に役立つTipsをまとめた技術書籍を書いたエンジニアが多数在籍しています。「CA.unity」という勉強会コミュニティも活発です。
大規模ゲーム開発が直面する課題の中には、ネットやマニュアルを調べても出てこない事が多く、その課題に対して知見のある人に聞いたほうが、早く解決できるケースが多々あります。社内に業界を代表するような有識者が多いので、とても心強いです。
── 「FINAL FANTASY VII EVER CRISIS」をふりかえってみて、エンジニアとしての今後の展望を教えてください
小松原:バトルやダンジョンなどゲームのコア部分であるインゲームは、プロジェクトの初期からモック開発に力を入れてきたので、リリース時からユーザーが満足できるクオリティに仕上げることができたと思っています。また、大規模なプロジェクトでは初となるマルチプレイ機能でしたが、大きな問題もなくリリースできたのは開発チームの技術力の賜物だと思っています。
自分にとっては過去最大のチーム規模でしたので、エンジニアリングマネジメントのあり方や、工数やチーム組成やスケジューリングなど、大規模ゲーム開発に見合うやり方が求められると実感しました。この点は、様々なフェーズでフォローしてくれた子会社の先輩や経験者からもっと学びたいと思いました。
小澤:そこは自分も痛感しました。特にαテストやβテストなど、プロジェクトの大きな転換点や壁に直面したからこそ、メンバーとの議論や知見の共有を経て突破口を見出した事で、大規模ゲーム開発ならではの経験が得られました。とはいえ、テストからリリースを通して、オンスケジュールで安定した開発や生産性を発揮するための改善点はまだまだありますので、今後の運用や別タイトルに活かせるように、磨きをかける必要性を感じました。
小松原:大規模ゲーム開発に関するノウハウは、「SGEコア技術本部」をはじめとして社内外に展開していく企業カルチャーがあるので、社外向けには技術ブログ「てっくぼっと!」や、技術カンファレンス「CyberAgent Developer Conference」や「CA.unity」などで共有できたらと考えています。
今後も、「FINAL FANTASY VII」シリーズなどビッグネームと肩を並べられるような開発力をアプリボットやゲーム・エンターテイメント事業部に積み上げ、まさに「世界を震撼させるサービスをつくる」開発組織にしていけたらと思います。
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