【DX最前線】「追いつけない差」を生み出す、データサイエンスの核心

技術・デザイン

サイバーエージェント入社後、「エンジニア」「開発責任者」「事業責任者」と役割を横断し”広告業界がテクノロジーで大きく変化した10年間”マーケットに向き合い続けた木村。

広告プロダクト「Dynalyst」を立ち上げ、エンジニアとして月間数千億レコードのデータを処理する技術的な要件が高いDSPを開発後、海外マーケットを視野に入れサンフランシスコにも同プロダクトの拠点を作るなど、事業責任者としても事業を牽引。2020年からは、小売業界のDX事業を推進しています。

「AIもデータサイエンスも全ては手段。大事なのは事業インパクト。」
データサイエンスチームを率い、小売DX事業に取り組む木村が、なぜそう言いきるのか。一貫した現場主義から得られた持論を語ってもらいました。

  木村 衆平     /  AI事業本部 データ・ワン事業部 プロダクトマネージャー  
2011年新卒入社。エンジニアとして広告効果測定事業の開発等に携わった後、広告配信プロダクト「Dynalyst」を立ち上げ、開発責任者・事業責任者としてプロダクトを牽引。2020年からは購買データを活用したマーケティングプラットフォーム「データ・ワン」の立ち上げ・事業拡大に従事。そのほか、「Data Science Center」の室長を務める。
木村 衆平  /  AI事業本部 データ・ワン事業部 プロダクトマネージャー
2011年新卒入社。エンジニアとして広告効果測定事業の開発等に携わった後、広告配信プロダクト「Dynalyst」を立ち上げ、開発責任者・事業責任者としてプロダクトを牽引。2020年からは購買データを活用したマーケティングプラットフォーム「データ・ワン」の立ち上げ・事業拡大に従事。そのほか、「Data Science Center」の室長を務める。

事業に差をつける鍵は「データサイエンス」

ー 開発・事業とさまざまな領域を見てきた木村さんは、今「データサイエンス」を牽引しています。ビジネスインパクトにこだわる木村さんがデータサイエンスを牽引するのは何故なのでしょうか?

一言で言うと「事業で差がつく、ものすごくコアな部分」だからです。
同じようなサービスが出てきた時に、「追いつけない差」を生み出します。データサイエンスを事業に活用できるサービスは本当に強く、同じビジネスモデルの競合を突き放せるほどインパクトがあるんです。

実際、過去に担当していた広告配信プロダクト「Dynalyst」では、ゲームクライアントを顧客ターゲットにしたタイミングで、「ゲームリテンション」※1の市場を切り拓きました。ゲームユーザーに対して、いつ・どのような広告を打てばアプリに戻ってきてもらえるか?という予測においてデータサイエンスを突き詰めたのですが、これが見事に成功。ゲームアプリ顧客の上位約70%が活用するプロダクトにまで成長しました。

※1 過去にアプリをダウンロードして使わなくなった、またはアンインストールをしてしまったユーザーを呼び起こすマーケティング手法

ポイントは、データだけでなく、「データを活かすノウハウ」と「技術力」があることです。ノウハウと技術力があることで初めて「貯めるべきデータが分かる」状態に持っていけます。データをどう活用すべきか分かっている組織にならないと、データサイエンスの本質的な経験値は蓄積されない構造なんです。

全てのパーツが揃うことで事業におけるコアな価値・競争力につながり、競合がサービスの中身を見れば見るほど「これはもう真似できない…」となるレベルまで持っていくことが出来ます。

ー 「真似できない」というのは、どのくらい再現が難しいのでしょうか?

データサイエンスを事業に活かすには、きちんと事業の成長に合わせた分析タスクのロードマップを引き、予測機能を実装していくことで初めて土台ができます。しかし、これを実現するためには、まずデータが取得できる環境も組織作りも必要で、その入り口から苦戦する企業が多いのが実態です。

データの取得という意味では、サイバーエージェントがこれまで取り組んできた「デジタル広告」は、広告主・配信先のメディア・ユーザーなどが複雑に絡み合っている市場、かつ幸いなことに、その広告が生まれてから配信されるまでほぼ全てがトラッキングできるので、データサイエンスを活かすには非常に良い環境でした。

ただ、こうした状況においても取るべきログデータが取れていなかったり、そもそもそれが重要だと気がつくのに何年もかかったのです。数々の経験を乗り越え、組織として「データサイエンスの経験値が蓄積される状態」に持っていくまでが至難の業でした。


ー 「データサイエンスの経験値が蓄積される組織」を作るのは、並大抵のことではないことが分かりました。

本当に、ここまで来るのに何年もかかりましたね。

さらに実際に組織をスケールさせるためには、データサイエンスの活用が売上に直結し、ビジネス的にも意味があることを事業責任者や営業、開発メンバーなど各所のキーマンに理解してもらう必要があります。だからこそ、コンスタントに実績を出していく必要もありました。

こうした長い道のりを経て、トライ&エラーを繰り返しビジネス貢献を行ってきたノウハウは、大きな資産になっています。
 

ー今取り組んでいることは?

AI事業本部内にデータサイエンスの横軸組織「Data Science Center」を立ち上げました。様々な領域の専門メンバーが連携し、データサイエンスで事業成果を出す組織作りを促進するためです。

世間ではよく、「データあります!」「データサイエンティスト雇います!」「でもデータの使い道がわからないです!」というデータ活用が頓挫してしまう話をよく聞きます。僕らはデータ活用について自分たちの事業において泥臭く、もう何年も向き合い続け、組織作りも進めてきました。結果としてデータを事業に活かす組織としての素地は出来たので、次はそれをスケールさせていくフェーズです。

事業部としてのデータサイエンティストは約90人。そしてありがたいことに一緒に新しい事業に取り組むパートナー企業も増え、やりたいこともバンバン増えている。そうなったとき、たとえば来年人数が倍になるくらい組織がスケールしても、回るような仕組みや文化作りにフォーカスしています。

データサイエンスで挑む、小売業界のDX

ー現在取り組む小売業界のDX事業における、データサイエンスの価値とは?

データサイエンスの活用先として、今サイバーエージェントが注力して取り組んでいるのが小売業界です。

実は広告業界と小売業界、構造が似ています。例えば広告では、広告を出したいクライアントがいて、広告プロダクトで配信を行い、メディアが出し先となりユーザーに広告が届くという一連のサプライチェーンの流れがあります。小売業界も結局のところ一緒で、物を売りたいメーカーがいて、その間に流通の仕組みがあり、店舗が出し先となり、ユーザーに物が届くという流れがあります。

「DX」というワードがここ数年で一気に話題になりましたが、大きく加速させる上で大事なのは、データの取得・活用を着実に行うことです。しかし海外と比較し、まだまだ日本国内においてはデータ活用が進んでいないのが現状。これを実現したいと考えた時に、僕たちがこれまで培ってきた技術力を活かすことが可能です。


ー具体的にデジタル広告で培った何の技術を活かしているのでしょうか。

「計測」ですね。お店でのユーザー体験はトラッキングできておらず、計測すべきものがたくさんあります。まずはDXで計測可能な世界を作ってあげると、自動化・予測ができるAIがどんどん育ってくるはずです。

そして計測可能な世界を作る上で、計測システムの開発は欠かせません。そこで活きてくるのが、僕らがこれまで10年前から向き合ってきたデジタルマーケティングにおけるデータ活用の知見と技術力です。

僕らならばシステムにおける必要な要件~配信の最適化まで、瞬時にアカウント構造を作ることが出来るエンジニア集団がいて、これまでの経験から課題点も意識しながら、洗練されたシステムが作れる。ドメイン知識と技術力が改めて活きている、と実感します。
 

分厚い資料を作るのではなく、実際に結果で見せる

ー  木村さんが率いる「Data Science Center」。チームの強みは?

全員が、データをビジネスにどう活用するかを考えられる組織であることです。
だからこそ、直近では広告ドメイン以外にも事業領域を超えて、データサイエンスで価値の創出が出来る状態になっていると思います。

「Data Science Center」は、僕とAI Lab研究員の安井で率いているのですが、極端なぐらい事業にどう意味があるのか?はずっと言い続けてきたポイントです。
その姿勢を示し続けたことで、今ではチームメンバーがデータサイエンスを事業にどう活かすかを当たり前のように意識してくれています。
事業で成果を出す上で、例えば立場がエンジニアなのか事業責任者なのかという役割は、手段でしかないですよね。極論、データサイエンスも手段なんです。それを使って、何をするのか?に立ち返るのが大事です。

その他には、「AI Lab」のような研究組織と高度な連携ができることも強みの1つです。連携のおかげで、本当に必要なデータ像が一気にアップデートされたこともありました。
 

 チームの軸としてはもう1つ。いかに「短期で成果を出すか」はめちゃくちゃ意識しています。

ー 「短期で成果を出す」ことにこだわるポイントは?

データサイエンス活用時、Web業界以外のまだAI・DXが浸透していない領域の事業においては、決裁者・意思決定者側からすると、「AIを使うとこれができる」というのが分かりづらいですよね。
だからこそ、「結果で見せる」ことを心掛けています。

決裁者目線に立って提案して、短期でわかりやすい指標を上げることを意識して設計し、まずは小さいスケールで事例を見せる。そしてそれを大きく活用するとこうなります、というのを提示する。

そうすると、やっぱりここへ投資しておくべきだよねという決定をもらいやすい。まさにデータサイエンスを事業に活用する際、初期に僕らがやってきたことでした。

AIで何ができるのかを示すときに、「分厚い資料を作るのではなく、実際に結果を見せる。」これができるのが僕たちの強みです。
 

目指すのは、本質的にユーザーのためになる購買体験

ー最後に、小売×データサイエンスでどんな未来をつくりたいですか?

既に小売業界の皆さんと取り組んでいる「計測できる世界」を実現するとともに、フェアな経済のシステムを作り、店舗の創意工夫が店舗にきちんと還元される世界を作りたいですね。そうすると、もっとユーザーに対してデジタルと融合した購買体験を店舗単位で提供できますし、これができると格段にDXがすすむと思います。

そして最終的には、究極的な話ですが世の中の人がいかに気持ちよく買い物ができるか・生活ができるかという「幸福度」のような指標を追っていきたいなと思ってます。データの先、ユーザーに使われる、もう一歩先の顧客体験の最大化を考えていきたい。

気持ちよく購買できるデジタル。それこそまだ計測できないので難しいですが、そこを意識したAIを作っていきたいと思ってます。

「これでみんなが本当に幸せになれるのか?」という軸をブラさずに突き詰めていきたいですね。
 

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