京都の創造性を、産業の未来へ。嵯峨美術大学・嵯峨美術短期大学と考える次世代クリエイターの育て方

技術・クリエイティブ

長い歴史と文化が息づく京都。嵯峨美術大学・嵯峨美術短期大学とサイバーエージェントは、次世代クリエイターの育成を目的に連携協定を締結しました。

京都ならではの創造性と、企業が持つクリエイティブや事業の知見を掛け合わせることで、クリエイターの可能性を広げ、日本のコンテンツ産業の発展につなげていくことを目指します。

本記事では、嵯峨美術大学・嵯峨美術短期大学の学長 江村氏と、サイバーエージェント執行役員/クリエイティブ担当の佐藤の対談を通じて、連携の背景や京都で取り組む意義、次世代クリエイターの育成についてお届けします。

クリエイターが、社会と関わるための視野を広げる

ー 連携協定を結ぶことになった背景を教えてください。

江村氏:
きっかけは、共通の知人を通じてサイバーエージェントの皆さんとお会いしたことです。お話をするなかで、嵯峨美術大学・嵯峨美術短期大学(以下:嵯峨美)が大切にしてきた美術教育と、サイバーエージェントが持つクリエイティブや事業の知見を重ねることで、何か新しい可能性が生まれるのではないかと感じました。

   江村 耕市氏     嵯峨美術大学・嵯峨美術短期大学学長  
 京都市立芸術大学美術学部デザイン科卒業。京阪百貨店販売促進室、デザイン事務所、フリーランスのグラフィックデザイナー、ドローイングアーティストなどを経て、2006年に京都嵯峨芸術大学(現・嵯峨美術大学)に着任。ビジュアルデザインや映像、ドローイング、言葉、コラージュなどを組み合わせた表現の研究・制作に取り組む。2011年には「emuralabo」を立ち上げ、学生や卒業生らとの協働制作も行っている。
江村 耕市氏  嵯峨美術大学・嵯峨美術短期大学学長
京都市立芸術大学美術学部デザイン科卒業。京阪百貨店販売促進室、デザイン事務所、フリーランスのグラフィックデザイナー、ドローイングアーティストなどを経て、2006年に京都嵯峨芸術大学(現・嵯峨美術大学)に着任。ビジュアルデザインや映像、ドローイング、言葉、コラージュなどを組み合わせた表現の研究・制作に取り組む。2011年には「emuralabo」を立ち上げ、学生や卒業生らとの協働制作も行っている。

本学では、学生一人ひとりの個性に合わせた教育を大切にしています。一方で、作品をつくることや表現を深めることに時間をかけるからこそ、それが社会の中でどのように受け取られ、誰にどう届けられるのかまでを経験する機会は限られます。

大学とは異なるシステムや考え方、スピード感を持つ企業と接することで、学生が自分の表現を社会の中でどのように生かしていくのかを考える機会をたくさんつくりたい。そうした学びを一度きりのものにせず、長期的な関係の中で育てていくため、今回の連携に至りました。


佐藤:嵯峨美には、以前、卒業・修了制作展にお邪魔したことがありました。具体的に何か一緒に取り組む前提ではなく、まずはどのような大学なのか、どのようなクリエイターが育っているのかを知りたいと思ったのがきっかけです。

実際に作品を拝見すると、学生一人ひとりが異なる表現を追求していて、その多様さが印象的でした。また、先生方と学生の距離が近く、それぞれの才能に丁寧に向き合いながら、強みを伸ばしていく教育が実践されていることが伝わってきました。

   佐藤 洋介     サイバーエージェント執行役員 / クリエイティブ担当  
 大手印刷会社のWeb制作部門に新卒入社後、2012年にサイバーエージェントへ中途入社。スマホサービス立ち上げの最盛期からクリエイティブ組織の体制を確立させ、競争力となるクオリティを社内から生み出す礎をつくる。2016年4月から当社初のクリエイティブ領域の執行役員に就任。「ABEMA」など主にメディア&IP事業のクリエイティブを監修。
佐藤 洋介  サイバーエージェント執行役員 / クリエイティブ担当
大手印刷会社のWeb制作部門に新卒入社後、2012年にサイバーエージェントへ中途入社。スマホサービス立ち上げの最盛期からクリエイティブ組織の体制を確立させ、競争力となるクオリティを社内から生み出す礎をつくる。2016年4月から当社初のクリエイティブ領域の執行役員に就任。「ABEMA」など主にメディア&IP事業のクリエイティブを監修。

当社では、人材が企業成長の源泉であり、大きな競争力だと考えており、クリエイターの育成に長く取り組んできました。メディアやゲーム、アニメなど、さまざまなコンテンツ事業を展開するなかで、そうした領域を目指す学生やクリエイターと接する機会も多くあります。

そのなかで感じているのが、コンテンツ産業を支えるクリエイターの裾野を、さらに広げていく必要性です。これからの時代は、技術だけでなく、一人ひとりが持つ個性や価値観がより重要になります。多様な才能が埋もれることなく、それぞれの強みを生かして活躍できる可能性を広げることが、産業の発展にもつながると考えています。

そんな中、当社ではこれまでも産学連携等を通じて、次世代クリエイターの育成支援に取り組んできましたが、なかでも京都は、アニメーションやイラストレーションなど、日本でも有数の専門領域を学べる美術大学が集まっており、クリエイターが育つ独自の環境がある地域として、以前から注目しているエリアでした。6月には、クリエイター育成拠点として「CANVAS KYOTO」を立ち上げ、嵯峨美の学生にも参加してもらっています。そうした接点も生かしながら、京都という土地で長期的に次世代のクリエイターを育てていきたいと考えています。

「 CANVAS KYOTO 」 
アニメ・ゲーム制作に携わるクリエイター人材育成と、中長期的な制作基盤の強化につなげていくことを目的とした拠点
「CANVAS KYOTO」
アニメ・ゲーム制作に携わるクリエイター人材育成と、中長期的な制作基盤の強化につなげていくことを目的とした拠点

京都の文化を起点に、創造性を育てる

ー京都という土地が、クリエイターの教育や創作において持つ魅力について教えてください。

江村氏:
京都では、400年前の出来事が自然に会話に出てくることがあります。それほど長い時間の流れが、日常の中に息づいている街です。美術大学やさまざまな大学が集まり、毎年新しい人が入ってくる一方で、その横には何百年、千年を超える創作の蓄積がある。

そうした時間の厚みがあるからこそ、京都はすぐに答えを求められない街でもあると思っています。ある意味では放っておいてくれる。自分の表現をじっくり掘り下げていくことが許される、懐の深さがあります。

また、街の規模が大きすぎないからこそ、異なる専門領域の人たちがつながりやすい。間に二人ほど人を挟めば、だいたい知り合いにたどり着くような距離感です。そうした人と人との近さが、領域を越えた活動や新しい創作につながっているのではないでしょうか。


佐藤:​​東京は、人が集まることで事業が生まれていく街だと思います。一方で京都は、文化が先にあり、その上に産業が成り立っている街です。だからこそ、歴史や文化を尊重しながら新しいものを生み出していくことが、京都では自然に行われている。伝統と革新が対立するのではなく、同じ場所に存在しているのだと思います。

クリエイターを育てるうえでも、これは大きな強みです。今は技術的に優れたものをつくるだけでは、差別化が難しい時代になってきています。何を見て、何を感じ、どのような経験をしてきたのか。そうした背景や個性に、これからはより大きな価値が生まれていきます。
最先端の情報や技術に触れることとは別に、長い時間の中で培われた価値観を背景に、自身が何と向き合いたいのかを考えられる。東京とは異なる創造の土壌が、京都にはあると感じています。


江村氏:京都の文化は、行政だけがつくってきたものではありません。むしろ祇園祭のように、街に暮らす人たちが自分たちの手で守り、育ててきたものが多いのが特徴です。

そうした文化のあり方に触れていると、自分の表現が社会や地域にどう受け止められるのかを、自然と意識するようになります。作品をつくることだけでなく、その表現を社会の中にどう置くのかを考えることにもつながるはずです。
 

「つくる」から「届ける」へ。異なる領域が重なり合う場をつくる

ー 具体的にどのような取り組みを予定していますか?

佐藤:
現段階では、当社のクリエイターと学生が共同で取り組むプロジェクトや、業界動向・制作現場など、実践的な学びを得られるプログラムを想定しています。また、キャリア形成につながる取り組みや、アート・デザインの視点を生かした地域連携のあり方を考えるワークショップなども検討しています。

共同プロジェクトやワークショップでは、嵯峨美の学生が持つ表現や感性に、当社のクリエイターが持つ制作や事業の経験が重なります。さらに、京都の文化や、そこで育まれた価値観が加わることで、単発の講義やプログラムだけでは生まれない学びや創作が生まれる可能性があります。

そのなかでも、当社が提供できるひとつに、つくったものを社会に届けるための知見があります。日本はモノづくりに強みがある一方で、つくったものを届けることには、まだ課題があると感じています。当社はサービスやコンテンツをつくるだけでなく、それをユーザーに届けるところまで手がけています。学生の皆さんにも、作品をつくることだけでなく、誰に、どのように届けるのかという視点を持ってもらいたいですね。

また、こうした学びとあわせて、早い段階からキャリアについて考える機会も設けたいと思っています。就職先を考えるということだけではなく、クリエイターとして何を成すのか、どのように生きていきたいのかを考え、将来の解像度を高めてもらうための機会です。

江村氏:学生が自分の表現を深めるだけでなく、それを社会の中でどのように生かしていくのかを考える機会にしたいですね。

大学での学びは、どうしても作品をつくるところまでで完結しやすい面があります。実際に誰かに届け、反応を受け取り、次の表現につなげていくところまで経験するのは、教育の中だけでは難しい。だからこそ、「つくる」ことの先に、誰に届けるのか、社会とどのように関わるのかまで考えてほしいと思っています。その先には、企業との仕事や事業として美術に関わることなど、さまざまな可能性があります。  

もちろん、美術と事業を完全に結びつけることには慎重さも必要です。一方で、それらを最初から遠ざける必要もありません。さまざまな関わり方や可能性を知り、その中から自分に合う道を選べるようになることが大切です。


佐藤:学生の純粋な熱量に触れることは、当社のクリエイターにとっても非常に大きな学びであり、刺激になると感じています。

単に企業側の知見を提示するような一方通行の関係ではなく、互いの強みと表現に対する姿勢をリスペクトし合いながら、クリエイティブの可能性を高め合う学びの往復が生まれる場にしていきたいと考えています

変えるのではなく、増やす。京都から次の可能性へ

ー 今回の連携を起点とした今後の展望をお聞かせください。

江村氏:
本学には、「美の術で生きていく。」というスローガンがあります。美をどのように自分と関係づけ、それを生きる力にしていくのか。作品をつくることだけでなく、表現する、伝える、使うことも含めて、さまざまな「術」があると考えています。

今回の連携によって、そこにサイバーエージェントさんが持つ新しい視点や考え方が加わることを期待しています。これまで積み重ねてきたものが置き換わるのではなく、新しい「術」が増えていくということです。

学生には、さまざまな生き方や表現の可能性を知ったうえで、自分がどう生きていくのかを主体的に選んでほしいと思っています。今回の連携が、その選択肢を広げるきっかけになればうれしいですね。


佐藤:私たちが目指しているのは、クリエイター一人ひとりの個性や才能が埋もれることなく、それぞれの形で活躍できる社会です。

今回の連携を通じて、京都から新しい才能や表現が生まれ、それぞれの個性を生かして活躍するクリエイターが増えていく。その積み重ねが、日本の文化や産業の未来を豊かにしていくと考えています。

そんな可能性を、嵯峨美の皆さんと一緒に広げていきたいですね。
 

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