アートディレクターが挑む伝統的価値の再解釈

技術・デザイン

サイバーエージェントの約2割を占めるクリエイターは、広告、グラフィック、Web、UI、イラスト、3DCG、映像など多岐にわたる分野で活躍しています。

本記事では、新しい未来のテレビ「ABEMA(アベマ)」のアートディレクションを手掛ける有吉にインタビュー。
藤井聡太竜王・名人らの活躍もあり、今や人気チャンネルの1つである将棋チャンネル。そのオリジナル番組のリニューアルプロジェクトでは、どのように伝統的な将棋の魅力を普段将棋に触れない人にも伝わるようにしたのか。その工夫と挑戦、そしてクリエイティブで競争力を高める、彼の情熱に迫ります。
※2023年9月末の連結役職員数
 

Profile

  • 有吉 学 (株式会社AbemaTV / ABEMA Creative Center)
    多摩美術大学大学院 デザイン専攻 情報デザイン研究領域卒。大学院ではメディアアートを学ぶ。クライアントワークを主軸とする企業に新卒入社し、Webデザイナーとしてキャリアをスタート。その後、制作会社でデザインとプログラミングを扱うアートディレクターとして働き、友人の誘いをきっかけに2021年にサイバーエージェントに転職。ABEMA Creative Centerに所属し、番組のビジュアル・ブランディング・プロモーションのアートディレクションに従事。

伝統のある“将棋”のモダン化でファン層を拡大

「将棋を知らない人も楽しめる将棋番組をつくる」というコンセプトを掲げ、ABEMAの開局から1年後の2017年にスタートした将棋チャンネル。タイトル戦の生中継は勿論のこと、オリジナルの対局番組も人気を集めています。

8つのタイトル戦のリニューアルを任され、最初は番組テロップのアップデートのみで考えていましたが、「それだけでは普段将棋を見ていない層に届かない」とチームで議論を重ね、キービジュアルやテロップ、対戦カードなどすべてのアウトプットを一貫してつくることにしました。

2023年は将棋界の歴史が塗り替わるほどの大きな盛り上がりが期待できるタイミングであったため、「名誉ある8つのタイトル戦の威厳と品格をさらに魅力的に見せることができれば、『ABEMA』と将棋界双方が盛り上がる一助になるかもしれない」と、かなり力の入ったリニューアルプロジェクトになりました。

まずキービジュアルで大切にしたことは、各タイトルの特徴を直感的にし、モダンに表現すること。
名人戦は最も歴史が長いので「亀」、竜王戦はタイトルにも入っている「竜」と全てのタイトル戦を生物にたとえて表現しました。

そして、より威厳と品格を感じてもらえるように日本画家の谷津有紀さんに生物を描いていただき、そこに筆書系デザイン書体である「闘龍」を組み合わせました。それに対して白色の文字情報は「V7明朝」と「IvyPresto Display」で、優雅なラインかつオールドスタイルをベースにした現代的な書体を選定し、デジタル用途や狭い幅にも最適化しています。
 

八大タイトル戦のキービジュアル。有吉ディレクションの下、日本画家の谷津有紀さんがオリジナルで制作。筆書系書体の文字を大胆に配置することで、動きのあるデザインに。
八大タイトル戦のキービジュアル。有吉ディレクションの下、日本画家の谷津有紀さんがオリジナルで制作。筆書系書体の文字を大胆に配置することで、動きのあるデザインに。

リスクをいとわないクリエイティブを

キービジュアルを作成後、テロップ制作に入りました。
私たちが目指しているのは、将棋を好きなコア層も、知らないライト層も楽しめる番組です。

リニューアル前は番組テロップがどちらかというとコア層向けになっていたので、ライト層向けに改修する必要がありました。
一方で、そうすると棋力の高いコア層にとっては物足りないテロップになってしまうという懸念が出てきます。

そのリスクを承知の上で、元々あったコア層向けのテロップをベースに、部分的にライト層に寄せて情報のレイアウトを調整。さらにキービジュアルのトーンである色合いやテクスチャを反映すると変更箇所が多くなります。従来のテロップに慣れ親しんでいる視聴者は驚く点も多くなるが、2023年の『第81期名人戦 七番勝負』が歴史的な一戦になることは明白だったので、そのタイミングに合わせてリニューアルをリリースしました。

新テロップの配信初日、視聴者の方から様々なご意見をいただきました。
中には厳しい声もあり、いざ現実を突きつけられると動揺を隠せませんでしたが、その一つ一つに目を通し、真摯に受け止め、即座にブラッシュアップ。配信2日目には修正を反映しました。
約1カ月間ほどその繰り返しで改善を重ね、それをベースに他のタイトル戦にも展開していきました。

初めての挑戦は時にリスクがありながらも、時間をかけてベストを追求したデザインを重ねていけることはクリエイターとして多くの学びがありますし、何より視聴者の反応をダイレクトに感じられることが、やりがいにつながっています。

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