1人では辿り着けないところへ──クオリティを求めたひとりのデザイナーが、クリエイティブに強い組織を創るまで

技術・デザイン

クリエイティブを会社の競争力とするため、日々奮闘する佐藤。
「ABEMA」などのメディアサービスをクリエイティブディレクターとして牽引しつつ、執行役員として、サイバーエージェントが世界レベルのクオリティを実現できるよう組織づくりを担います。
入社した当時はいちデザイナーだった佐藤を、ここまで支えてきたのは、「目の前のクリエイティブを良くしたい」という誰よりも強い想いでした。

今では組織を牽引する佐藤ですが、数え切れないほどの失敗と挑戦を繰り返してきています。本記事ではそんな佐藤が、これまでどうクリエイティブと向き合ってきたのかをお伝えします。

「目の前のクリエイティブを良くしたい」
いちクリエイターとしてのチャレンジ

──佐藤さんは2012年にサイバーエージェントへ中途入社しました。なぜ転職を決意したのですか?

大手印刷会社でデザイナーとしてクライアントワーク中心に働いていましたが、もっとユーザーと対峙したいと思い、当時「スマホサービスを年間100個立ち上げる」と宣言していたサイバーエージェントに興味をもち、入社を決めました。

入社した当時は、それぞれの知見をもとにアプリ開発をしていた状況で、正直混沌としていました。担当するクリエイターの力量が、サービスクオリティのアッパーになってしまっていて、とてももったいない。「一人ではたどり着けないクオリティをチームで作れる環境にしたい…」その一心で、気付いたら勝手に動いていました。

まずは僕自身の信頼を得るために、会議だけでなく休憩時間などの隙間時間も使って、アウトプットをとにかくいろんな人に見せました。「やっていいですか?じゃなくて行動しろ」というスタンスの社長の藤田や先輩たちの姿勢がとても嬉しくて、全てにおいて120%くらいの力で返して信頼を得ようと思いました。次第に周囲も肯定してくれて、自分のやり方で進めていいんだという安心感がありましたね。

佐藤が入社して間もなく新設した会議「デザイナーロワイヤル」。すでにリリースされているサービスに対してデザイナーが改善案を出し、得点を競い合うバトル形式の会議。周りに自分のスキルをアピールできる機会と、周囲と自分のスキルの差を認識する場として実施された。
佐藤が入社して間もなく新設した会議「デザイナーロワイヤル」。すでにリリースされているサービスに対してデザイナーが改善案を出し、得点を競い合うバトル形式の会議。周りに自分のスキルをアピールできる機会と、周囲と自分のスキルの差を認識する場として実施された。

──ソロプレイではなく、チームプレイを目指すためにどのようにチームを作っていかれたんですか?
 
「とにかく良いものを作りたい。」この気持ちだけで当時は走っていました。
気が付けば40ほどのサービスを僕ひとりでまとめようとしていて…。当然、それでは目が行き届かないので、クリエイターのヒエラルキーを作るために、複数のサービスクオリティを統括する「クリエイティブディレクター」制度を導入しました。気付いたらクリエイター約120人のうち10人ものクリエイティブディレクターが生まれました。

振り返ってみれば、僕が本当に作りたかったのは、事業と育成とクオリティーを担保する“クリエイティブマネージャー”だったんですが、当時はマネジメントについて何もわかっていなかったのでクリエイティブディレクターを量産してしまったんですね。単なる役職だけで、ちゃんと“ミッション”として渡せていなかった。

ちょうどサイバーエージェントの総合クリエイティブディレクターとしてNIGO®氏を迎え入れた頃で、僕のもとにいた沢山の「クリエイティブディレクター」を連れて初めて挨拶に行ったとき、「クリエイティブディレクター、多過ぎじゃない?」と言われたことで、初めて気付きました(笑)。

気付いたらワンマン経営に
合宿で出された「シュガー解任」

──その後、組織づくりへの変化はありましたか?

市場が成長してより再現性の高いクリエイティブが求められるようになっていた当時、経営戦略的にもデザイナーを統治してすべてのクオリティを上げることが求められていたので、「クリエイティブディレクター制度」は一定の効果はあったと思います。結果、2~3年でサービスクオリティのレベルや現場の視点はどんどん上がっていきました。

しかし当時の僕には「ヒエラルキーを作る=トップがワンマンで引っ張っていく」という考え方しかなかったんです。

メディアクリエイター組織のマネジメントや採用、クオリティなどを担うチーム(メディアクリエイティブボード)で、来期の組織目標を考える合宿の中で、気付いたら決議された施策のほとんどの責任者が、「僕」だったんですよね。
そんななかに、核心をついたひとつの提案がありました。「シュガー解任」※です(笑)。
(※シュガー=佐藤の通称名)

ポストイットに書かかれたメンバーからの施策案。これを機に佐藤は業務を棚卸しし、権限譲渡を決意する。
ポストイットに書かかれたメンバーからの施策案。これを機に佐藤は業務を棚卸しし、権限譲渡を決意する。

──「シュガー解任」とはどのような案だったのでしょう!?

テキストだけでみるととてもインパクトはありますが(笑)、要するに会社としてもっとクリエイティブで勝負していくには、僕自身がメディア組織から出て、意識を全社に向けていかなくてはいけない。そんな想いを込めたメンバーからのメッセージでした。

僕がすべて一人で決めていたら、僕と現場の距離が開いていく一方だということに気づけていなかったんです。それまでは僕だけがミッションを持っていて、他のメンバーが持っているのはタスクだったんですよ。この変化はとても大きかったです。

それからは事業、育成、クオリティなどそれぞれに対して責任を持つのは誰か、そのためのミッションは何かを決め、組織を民営化し体系化していきました。

「シュガーさんは今、楽しいですか?」
クオリティと成果を求めて見つけた大切なこと

──権限譲渡していったことで、佐藤さんは次にどんなチャレンジをしたのですか?
 
僕も直接手を動かしながら、「ABEMA」という事業へどうやってクリエイティブの力を還元していくか、とにかく向き合いました。インハウスならではの強みを追及し、サイバーエージェントにしかできないクオリティを目指そうと必死でした。そのために、数値成果とクリエイティブ成果の両方をチームメンバーには求めるようになりました。

これがとても難しかった…。数字を追うことでバナーやLPのコンバージョンなどの数値成果は上がっていった一方、クリエイターのモチベーションがどんどん下がっていくんです。定性的なものを、無理やり数字に転換したりもしました。

その時にメンバーから「シュガーさんは今、楽しいですか?」と言われたことがありました。
意表を突かれましたね。そもそも作り手が楽しめていないクリエイティブで、ユーザーの心を動かすことなんてできない。わかっていたつもりだったのですが。
 
それからは組織として一律に数値成果を求めるのをやめました。クリエイターによって何にモチベーションを感じるかが違う。数字の効果改善にモチベーションを発揮するタイプもいるし、課題整理に力を発揮する人もいるし、自分の作ったものの裏付けに注力する人もいる。一人ひとりの強みやwillと向き合い、それぞれの得意な所でちゃんと成果を出すことを優先しました。

人材戦略と向き合うことでクリエイティブマネージャーの育成も進みました。管理することがマネジメントではなく、サービスのクオリティを上げるために、メンバーと向き合い、良い配置をし、モチベーションを上げるために考えを巡らす。そうしながら正しいマネジメントを理解してもらうことに努めました。そうすることでマネジメントのノウハウが現場にどんどん溜まり、ものづくりのレベルはかなり高くなっていました。
 

──会社としてクオリティを上げる体制が整ってきた中で、次のステップはどこを目指したのですか?

新しくリリースを控えていたサービスのクリエイティブを提案したとき、役員に「キレイなものばかり作るな」と言われてハッとしたことがありました。ずっと「クオリティが高い」ことを目標にしてきたけれど、市場がどんどん飽和してきているので、良いものを作るだけでは流行らない。
「市場にハマらないと意味がない」ということには気づかなかったんです。

事業として成長するためのクリエイティビティとはなんだろう……それを実現するためには、クリエイターがもっとビジネスや市場を理解しないといけない。作るだけではなく、作ったものを育てるクリエイターが必要だという課題に直面しましたね。

そのためには、クリエイターがクリエイティブの領域から出て、事業においてどこまで担えるかチャレンジをすることが重要でした。そもそも"クリエイティブ思考"という言葉があるくらいですから、クリエイターは専門の教育を受けているんですよ。それをビジネスに応用するやり方を知らないだけで、できるはずだと僕は思っています。

例えば、マーケティングの視点を取り入れ、調査などのベーシックな課題出しの段階で質の高いアイデアが出せれば、最終的なクオリティは絶対に変わる。サービスの初期段階からしっかりクリエイターが入っていくことで、ビジネスでも成果を出し、クオリティも高いものづくりができるはずです。

じっくり事業成長の再現性を高めていく「前進」と、クリエイティブのアイデアによる「飛躍」は両方とも重要で、クリエイターの事業への影響力を考えるきっかけになりました。

社長室直下にクリエイティブ組織を新設
世界レベルのクオリティを目指す

──様々な紆余曲折がこれまでもありましたが、失敗を前に進めるために大切なことはなんだと思いますか?
 
僕自身のことでいえば、「素直さ」かもしれないですね。サイバーエージェントは風通しの良い会社だとよく言われますが、僕が間違ったときに、まったく別の角度からの視点をよくくれるんです。社長の藤田や、役員や、メンバーの話を聞いていて気づかされることが多い。その時に「確かに」と素直に受け入れて、まずはやってみるところは僕の取り柄です。誰からも指摘されなくなることが一番のリスクですから。

きっと、社内では僕が一番と言っていいほど失敗しているはずですよ。表にはあまり見せないようにしているけど、心の中では誰よりも冷や汗をかいています(笑)。最近は組織が民営化されてきたので、僕が失敗したら見抜いて指摘をくれる人も増え、より健全な状況になってきた気がしますね。

──今、目指している組織像は?
 
これからいろんな価値観を持ったクリエイターがどんどん増えてくるでしょうから、計れない期待値を作りたいです。
ユーザーから見て、「きちんと説明が難しいけど、サイバーエージェントの作るものって良いよね。」という企業になりたい。そのために、クリエイターが事業成果に対して影響力を持つようにしたいですね。

そのための準備として、2021年4月に、全社クリエイティブ組織(CA Creative Center)を社長室直下に新設しました。社長の藤田とはずっと「世界レベル」という話をしていて、あらゆる面で世界レベルのクオリティが出せるように、仕組みや組織で担保できるような状態を目指しています。
クオリティといっても、いろんな要素を含みます。世の中に出すアウトプットはもちろん、事業や、飛躍させるアイディアのクオリティなど…それら全てにしっかり向き合うことで、うちの魅力となり、競争力になっていく。

最近よく思うのは、サイバーエージェントの競争力になるのは“クリエイター”ではなく、彼らが作る“クリエイティブ”なんですよね。
そして、人を動かすクリエイティブは、人の熱量でしか生まれない。
クリエイティブをナレッジ化・仕組み化し、再現性が求められている今の時代だからこそ、僕はクリエイターの熱量を大切にしながら、クリエイティブに強い、唯一無二の会社にしていきたいですね。

この辺りの僕の想いや、会社が今後目指す次のステージについてなど、3/24に開催した「CyberAgent Developer Conference 2022」の基調講演にて直接お伝えしていますので、よろしければご覧ください。

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