【対談】岡田麻衣子×亀田祥倫
Studio Kurmが挑む「持続可能な」アニメの次代
日本のアニメーション文化を未来へ繋ぐ──。この使命を掲げ、2025年10月に設立したアニメスタジオ「Studio Kurm(スタジオクーム)」。2026年1月にはクリエイター代表として亀田祥倫が参画し、ついに新体制が本格始動しました。
代表 岡田が目指すのは、クリエイターの価値最大化と、持続可能な創作の仕組みづくり。強力タッグで挑む、次世代のアニメスタジオの展望に迫ります。
20年の信頼が生んだ、必然のタッグ
― ついに「Studio Kurm」本格始動ですね。 お二人のタッグは業界でも注目されていますが、まずはその経緯から教えてください。
岡田: 亀田さんとは『ドラえもん』の現場で出会って以来、もう20年近くの付き合いになります。
当時から勢いのある絵を描くだけでなく、演出意図を汲んだ上で、そこにプラスアルファの魅力を乗せた“いい画”を上げてくる。「あ、この人すごいな」と思っていました。
その後、亀田さんがメインクリエイターとして活躍していく中で感じたのは、絵の上手さはもちろん、現場を引っ張る「人を巻き込む力」を持っていること。そこが稀有なんです。
だから、私が再出発を決めた時、1番に相談したいと思ったのが亀田さんでした。「新しく一緒にやりませんか?」と。そうしたら自然と同じ方向を目指すようになって、今に至る感じです。
― 亀田さんは、岡田さんから相談を受けた時、どう感じましたか?
亀田: 正直、改まって誘われたというよりは、普段の会話の延長線上で決まった感覚でしたね。 僕らは以前から「もっとこうしたらいい現場になるのに」という話をずっとしてきた、いわば同志のような関係です。岡田さんは業界でも有名な熱量の高いプロデューサーですから、「岡田さんが全部自分で立ち上げるなら、手伝いますよ」くらいのスタンス。
大きな決断というより、これまでの積み重ねが自然と形になった、という方が正しいかもしれません。
岡田: 今まで現場で感じてきた、自分たちのやり方だけではうまくいかない歯痒さ。その根底には、このままではアニメが作れなくなってしまうんじゃないか、という強い危機感がありました。
日本のアニメーションは、素晴らしい先輩たちがひたすらに面白い作品を作り続けてくれたからこそ、今こうして世界中で愛されています。この偉大な文化を途絶えさせず、未来へ繋いでいきたい。 その一心で、今度は自分たちで1から会社を立ち上げ、クリエイターが誇りを持って働ける環境を作る側になろう。そう決意してスタートしました。
「見抜く目」と「守る力」 責任を持って届けるためのプロデュース力
― 亀田さんから見て、プロデューサーとしての岡田さんの凄みはどこにありますか?
亀田: まず、岡田さん自身が元々アニメーター志望だったこともあって、絵が見れるんです。これはプロデューサーとしては珍しい強みです。
よく「この人どう?」ってXのアカウントが送られてくるんですが、有名どころだけでなく、まだ誰も見つけていないような原石も貪欲にリサーチしてくる。
― クリエイター発掘において、SNSも駆使されているんですね。
亀田: そうなんです。埋もれている才能に常にアンテナを張っていて、現場としても選択肢が増えるので助かっています。
それと同時に、制作進行やマネジメント面での“逆算”が抜群にうまい。
気づきが早くて、「このままだとヤバいよ」とかなり早い段階でアラートを出してくれる。スケジュールに関しては正直うるさいくらい厳しいですよ(笑)。
でも、そのおかげで僕たちクリエイターが、最後の最後で粘れる時間が作れるんです。
岡田: スピードとクオリティはどうしてもトレードオフになりますからね。誰かが時間を管理して防衛線を張らないと、なし崩しになってしまう。
亀田: その防衛線のおかげで、クオリティを落とさずに済むんです。
岡田さんの中には「他社に丸投げせず、自分たちで作る」という強い意志があります。人に任せて後で尻拭いをするくらいなら、最初から自分たちの手で責任を持ってやり切る。
そういう覚悟があるからこそ、時に厳しい管理もするんだと思います。
岡田: 現場を作り、納品まで責任を持ってやり遂げる。今の業界では、これを当たり前にやることすら難しくなっています。だからこそ、その当たり前を徹底できること自体が、スタジオとしての最大の武器であり、信頼になる。
作るだけでなく、作ったものを、ちゃんと視聴者に届けるところまで責任を持つことが重要だと思っています。
統一性よりも「個性」を 亀田祥倫のクリエイティブ論
― クリエイティブの方針としては、どのようなものを掲げているのでしょうか?
亀田: 僕の好みですが、絵柄の統一性よりも、アニメーターの個性を最大限に生かすことを心がけています。 極端な話、描き手によって絵にばらつきがあってもいい。型にはめて生き生きした線を殺すより、その人の持ち味を画面に残したいんです。
もちろん最低限のラインは守りますが、演出やアニメーターと対話しながら、どこを直して、どこを残すかを見極める。
そうやって、一人ひとりの個性がちゃんと見える作品作りをしています。
岡田: 亀田さんは、そこが本当にうまいんです。 色々な現場で評価を得てきているので、作品にとって何が大事かをちゃんと見た上で、アニメーターを遊ばせることができる。ある程度の余白を残しつつ、フィルムとして成立させる術を知っているんですよね。
だから、参加してくれるアニメーターの皆さんも「自分の絵が出ている」という実感を持てるし、それがモチベーションにもなると思います。
亀田: 自分たちはテレビシリーズも映画もやってきて、どんな素材が来てもある程度のラインには持っていける自信があります。だからこそ、若手の個性やクセも殺さずに、魅力に変えていけるんじゃないかなと思います。
若き才能へ「プラスオン」を Studio Kurm流のチーム作り
─ Studio Kurmでは、どのような方と一緒にものづくりをしていきたいですか?
岡田: 1番は熱量ですね。作品を作りたい、貢献したいという気持ちを持っていること。そして、自分だったらどうするかという視点をプラスしてくれる人と働けたらいいなと思います。
亀田: 技術面で言えば、今の若手の皆さんは本当にすごいですよ。僕らの時代とは情報の量がまるで違う。今はネット検索ですぐに「正解」に辿り着けますから。作画MADを見れば誰がどのカットを担当したかもすぐ分かるし、共通認識としての「目指すべき頂点」が明確なんです。だから、絵の平均レベルがすごく上がっている。
― 最初から「手本」となる情報にアクセスできるわけですね。
亀田: そうですね。登山に例えるなら、いきなり車で「6合目」くらいまで登っているような状態です。 かつて僕らは1合目から泥臭く登ってきたけど、今の若手の皆さんは最初から装備が整っている。
インディーアニメの流行もあって、学生時代から制作経験があったり、海外と繋がっていたり。スタートラインの高さには驚かされます。
― そんな若手クリエイターに対して、どのような環境を提供できるのでしょうか?
亀田: 高いレベルからスタートしているからこそ、もっとプラスオンなことを教えていけると思っています。 ただ、彼らにとって僕らのようなベテランは、ちょっと怖そうに見えるみたいで(笑)。
だからこそ、ここは風通しの良い環境にしたい。規模がミニマムな今のうちに、ダイレクトにコミュニケーションを取り、なるべく早くレスポンスを返すように心がけています。
岡田: 新卒だけでなく、例えば30歳を過ぎて、やっぱりアニメをやりたいと一歩踏み出す方も歓迎です。 アニメは総合芸術です。若い方の感性と、私たちのような経験を積んだ中堅・ベテランの知恵を出し合いながら作っていく方が面白いですよね。
「亀」のように地に足をつけて 世界へ届けるための新たな挑戦
― サイバーエージェントとのシナジーについてはどう考えていますか?
亀田: 僕らはどちらかと言えば、力技系で、昔ながらのやり方を継承しているタイプです。でも、だからこそAIなどの新しい技術には期待しているし、興味があります。
現場ではこだわりを優先して敬遠する空気もまだありますが、僕は近くに見える位置に置いておくことが大事だと思っています。古いやり方だけだと、どうしても選択肢が狭まってしまいます。 使い方を間違えず、ちゃんと生かすことができれば、アニメーションの可能性はもっと広がるはずです。
そうやって時代に合わせてチューニングしながら、自分たちも変わっていきたいし、世界に届く作品を作っていきたいですね。
岡田:そうですね。技術面もそうですが、経営や組織運営をしっかりバックアップしてもらえることで、作品づくりに専念できる点も、大きなシナジーだと感じています。クリエイターが創作に集中できる環境があるのは、本当に心強いですね。
― では最後に、今後の展望をお聞かせください。
岡田: Studio Kurmという社名のKurmは、元々“組む”から来ているんですが、ロゴマークのmの部分には亀を模しているんです。童話「うさぎとかめ」のように、地に足をつけて、ゆっくりでも確実に前に進んでいく。そして、最後にはちゃんとゴールする。そんなスタジオでありたいと思っています。
亀田: 毎年ちゃんと何かを届けられる作品作りをしたいですね。コンスタントにアウトプットしていく、それが会社としての信頼にも繋がっていくと思います。
岡田: 自己満足ではなく、ちゃんと広く視聴者に届いて、評価される作品を作る。そして、その評価を次の作品に生かす。そのサイクルを回しながら、クリエイターが幸せに働ける理想に一歩ずつ、近づいていきます。
Studio Kurm 採用情報 https://studiokurm.co.jp/#recruit
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