「ABEMA」の動画エンジニアが求める画質と安定のバランス

技術・デザイン

サイバーエージェントには、特定の分野に抜きん出た知識とスキルを持ち、その領域の第一人者として実績を上げているエンジニアに、新たな活躍の場を提供するとともに、各専門領域において、その分野の発展のための貢献・サイバーエージェントグループへ還元することを目指すための「Developer Experts制度」が存在します。今回は動画技術のDeveloper Expertsとして活動する松澤 友弘と、動画技術およびプロダクトデザインのDeveloper Expertsとして活動する五藤 佑典に話を聞いてみました。

Profile

  • 松澤 友弘 (マツザワ トモヒロ)
    2000年ごろから某社の動画エンコーダー装置の開発に携わり、2006年に渡米。2007年にシアトルのスタートアップに入社して、ゲーム開発に携わった。2014年に帰国して、SNSアプリの動画配信機能の開発に携わり、2016年にサイバーエージェントに入社。FRESH LIVE(2020年にサービス終了)に国内最速で低遅延HLS(LHLS)を導入し、現在は「ABEMA」「CL」の動画配信の開発に従事。

  • 五藤 佑典 (ゴトウ ユウスケ)
    米国カリフォルニア州立大学サンバーナーディーノ校でグラフィックデザインを学んだ後、大手 IT 会社にてマーケティングとデザイン業務に従事。現職でエンジニアに転向。現在は 「ABEMA」にてプロダクトのデザインとエンジニアリングに広く携わる傍ら、動画技術エバンジェリストとして国内外で動画事業における技術調査を行っている。著書に『Atomic Design ~堅牢で使いやすいUIを効率良く設計する』がある。

「ABEMA」の動画エンジニアに求められる素養

― 「ABEMA」の有料オンラインライブ「ABEMA PPV ONLINE LIVE」のリリースから1年が経ちました。
 

氏名

松澤

コロナ禍の影響を受けて「ABEMA」では2020年6月から有料オンラインライブ「ABEMA PPV ONLINE LIVE」を開始し、開始から約半年で総動員数250万人以上を記録しました。生放送でのコンテンツ配信となるので、特に動画の品質向上や安定配信に関しては、技術的に難易度の高い案件となりました。

収録番組の場合、配信予定の動画ファイルを事前にトランスコードするので最適な形で圧縮することが可能です。しかしリアルタイムのライブ配信ではトランスコードができません。収録番組と同じビットレートで配信しようとすると、どうしても画質的には見劣りしてしまいます。

「ABEMA PPV ONLINE LIVE」に向けて、ビットレートの調整やエンコーダーのセッティングのチューニングなど、可能な限りの品質向上を目指しました。

ー 世界的に見ても、動画配信サービスの需要は増し、技術も進歩していますが、「ABEMA」の動画エンジニアとして、重視しているポイントは何ですか?
 
氏名

五藤

低遅延のプロトコルやコーデックなどの新しい技術を導入すると共に、ユーザーが求めている期待を技術的に実現するデザイアビリティを重視しています。

エンジニアとして動画の画質を良くしたいと考えるのは当然です。とは言え画質だけを優先してしまうと、回線が遅いユーザーにとっては不安定な配信になってしまいます。

氏名

松澤

例えばHLS(HTTP Live Streaming)というプロトコルで動画を配信する際、2秒または10秒で区切った「チャンク」という細かいファイルに分割して配信しますが、そのサイズが不揃いになるケースもあります。ユーザー端末のプレイヤーからすると、突然大きなサイズのファイルが送信されると、弱い回線では処理しきれずに再生が停止したり、画質が不安定になる可能性もあります。

氏名

五藤

動画の美しさだけで言えば情報量が多いに越したことはないですが、誰もが大容量のWi-Fi回線の下で「ABEMA」を観ているわけではありません。配信された動画情報を得るための通信コストはユーザーが払うことになります。

そこで、動画分析ツール「YOUBORA Suite」を用いてQoE(Quality of Experience=ユーザーの体感品質)のモニタリングを行なう事で、ユーザーにとって最適な配信のバランス調整に役立てています。

「ABEMA」ユーザーそれぞれにとって、画質と安定性とコストの最適なバランスを突き詰めていくのが「ABEMA」の動画エンジニアの仕事です。

― 「ABEMA」も開局から5年が経ちました。現在とりくんでいる技術的なチャレンジは何ですか?
 

氏名

松澤

開局時から運用している配信サーバーは、ほぼ自前で開発した事もあり、システム的な拡張性が高く、リニア放送から生配信、「ABEMA PPV ONLINE LIVE」まで様々な動画処理をこなし、HLSやMPEG-DASHやDRM(デジタル著作権管理)にも対応してきました。

その一方、この5年間で低遅延の新しいプロトコルや新コーデックが登場しました。「ABEMA」も世の中のニーズに合わせて開局当初のリニア配信とタイムシフトというシンプルなスタイルに加え、VOD(Video On Demand)である「ABEMAビデオ」、月額サブスクリプションである「ABEMAプレミアム」、 有料オンラインライブ「ABEMA PPV ONLINE LIVE」、とビジネスモデルが拡大するにつれ、システム面も複雑になっていきました。

そこでサードパーティ製の新たな配信サーバーをベースに、「ABEMA」の要件を満たす拡張開発を加えた「新配信サーバー」へと刷新予定です。

氏名

五藤

変わり続ける「ABEMA」のビジネスモデルに合わせて拡張増設を続けてきた配信サーバーを、より標準的でシンプルな構造に刷新するという構想です。「ABEMA」のようにビジネスモデルが変化し続けるサービスの場合、配信サーバーもモジューラブルな仕組みのほうが対応しやすい。使わなくなった機能をスピーディに削ったり、新しい機能を試験的に導入して検証できるような形を目指していきます。

氏名

松澤

新配信サーバー導入はユーザーにとっても大きなメリットがあります。まず、チャンクを統一したサイズで送れるようになるので安定性は確実に向上します。またビットレート制御も最新になりますし、生放送の画質も明らかに良くなります。最初は「ABEMA PPV ONLINE LIVE」からになりますが、リニア放送のほうも順次手を入れていく予定です。

Developer Expertsとして
動画技術の底上げをしたい

以前のインタビューで五藤さんにDeveloper Expertsとしてのお話しをうかがいました。松澤さんにも是非お話を聞かせてください。
 

氏名

松澤

私がDeveloper Expertsに任命されたのはサイバーエージェントグループが展開する「ABEMA」以外の動画サービス「CL」もサポートしていた実績も含まれていると思っています。Developer Expertsの活動を通して、サイバーエージェントの動画技術の底上げをしたいと思っています。

特に、動画エンジニアの育成には力を入れたいですね。例えば、低遅延プロトコルに対応する場合、ユーザーの端末プレーヤー側のパケット受信に手を入れる必要があります。そのため、最新の技術に対応するためには、配信サーバー側だけではなく、プレーヤー側の開発もできる人材が求められます。そのためにも、教育的なことを出来たらという思いはずっとあります。

氏名

五藤

採用や技術イベントで質問される事の中に「動画技術は何から手を付けていいかわからないのでハードルが高いです。」という声が多いんですよね。他の技術分野と比べ、一人前のレベルになるまでの道筋が分かりにくい部分があるかもなので、そのキャリアパスを明らかにする事で、参入する人を増やしたいですよね。

氏名

松澤

英語の仕様書がメインというのもあるかもですね。翻訳されたマニュアルも少ないですし。ただ、そこまで難しくないはずなんですよ。恐らく仕様書が全部日本語だったら簡単に分かるはずなので(笑)。ただ、有志による和訳や事例紹介も少なかったりするのも現状です。

氏名

五藤

ただ、動画技術の場合、普遍的な根幹技術というのは10年経っても変わらないので、一度体系的に習得すればトレンドに左右されずに活躍できるという点もあります。メディアにこれだけ動画が溢れる時流において、動画の技術を身に付ける事はエンジニアの生存戦略という意味でもメリットは大きいと思います。

― 最後に、一緒に働くならどんな人がいいですか?
 
氏名

松澤

「ABEMA」はどんな技術を使っても良いという自由さがあります。「あなたの職域はここからここまで」という制約もないのもあり、私もiOS, Android, Webフロント, サーバーサイドまで全部やっています。意外とフルスタックエンジニアを目指す人にとっても理想的な環境かもしれません。

氏名

五藤

弊社サイバーエージェントにおける一般的なエンジニアの職域的にはiOSやAndroid、Webといった区分もありますが、動画というドメインはその縦軸を横に貫いて仕事をしています。動画エンジニアとしてインプットからデリバリーから全てに関わることも可能です。

そういう意味でもドメイン知識を深めたい人に来てほしいですね。そして「ABEMA」がドメインとして関わっている領域のコアが動画なので、そこに対して技術的に強くなりたいと思っている人と一緒に働ければと思います。

サキドリ選考

サイバーエージェントの新卒エンジニア採用の早期選考です。職種別にある募集条件を満たしていれば、どなたでも選考を受けていただけます。「サキドリ選考」では、面接を受けた皆様に現場エンジニアから技術力に関してアドバイスをさせていただくほか、2次面接を通過された方を対象に、人事から就職活動におけるサポートをさせていただきます。

当社が規定する基準を満たしている方は、一部選考フロー免除の特典が適応される場合がございます。また、「サキドリ選考」でお見送りになった方も、本選考にて再チャレンジしていただくことが可能です。

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