【最新研究】人とロボットが共存する未来
次世代デジタルマーケティングの鍵は「期待を越える体験」

技術・デザイン

AI Labで「ヒトが信頼したくなる対話エージェント」の研究開発に取り組む接客対話エージェントチーム。
2017年から大阪大学大学院基礎工学研究科石黒研究室と共同研究をスタートし5年目に突入、これまで数々の実証実験行い、HCI(Human Computer Interaction)やHAI(Human Agent Interaction)の領域で新たな知見を生み出してきました。よりリアルなフィールドでの実証実験にこだわる彼らが考える、人とロボットが共存する未来・描く世界観・それを実現するための研究体制とは。

Profile

  • 馬場 惇 AI Lab リサーチサイエンティスト
    2014年に京都大学情報学研究科を修了後、新卒でサイバーエージェントへ入社。DSP事業におけるロジック開発責任者を経て、人工知能技術の研究開発組織「AI Lab」の設立に参画。現在は、AI Labの接客対話エージェントチームのリーダーとして石黒研究室との産学連携を担当。大阪大学基礎工学研究科 招聘研究員。

  • 岩本 拓也 AI Lab リサーチサイエンティスト
    2013年北陸先端科学技術大学院大学 知識科学研究科 修了。対面のコミュニケーションを拡張させるインタラクティブ技術の研究に従事。2019年に「ロボットを使った人間が会話を行わない婚活パーティ」を実施。CCSE、WISS、HCI研究会、IPSJ-ONE,Nicograph,HI学会の運営委員を務める。

  • 尾崎 安範 AI Lab リサーチサイエンティスト
    2014年東京大学大学院 情報理工学系研究科 修了。2014年NTT 入社。センサデータを用いた非言語インタラクション技術の研究開発に従事。2019年サイバーエージェント入社。現在、AI Labにて接客対話グループのReseach Scientistとしてインタラクション技術の研究開発に従事。大阪大学基礎工学研究科 招聘研究員兼務。

  • 宋 思超 AI Lab リサーチサイエンティスト
    接客対話グループのReseach Scientistとして遠隔操作ロボットの研究開発に従事。大阪大学基礎工学研究科 招聘研究員を兼任。2019年総合研究大学院大学にて情報学のPh.D.取得。2013年ノルウェー University of Osloにて情報学修士課程修了。

サイバーエージェントがロボット?ユーザの心に響くものを一緒に見つける研究

── AI Labが人型ロボット活用の研究をはじめて約4年ですね。改めて、なぜサイバーエージェントがロボット研究に取り組んでいるのか?教えてください。
 

氏名

馬場

サイバーエージェントの主力事業の1つであるインターネット広告領域では、ここ数年、「オンラインとオフラインを融合した、より質の高い顧客体験を生み出すマーケティング」の重要性が高まっています。スマートフォンが普及したことによって店舗のデジタル化や小売業界のテック化が進むなか、「ロボット」という媒体が次世代のデジタルマーケティングの手段、新しい広告媒体にもなるのではないかと私たちは考えています。

氏名

尾崎

実現に向け、2017年より大阪大学大学院基礎工学研究科石黒研究室と共同研究をスタートし、「人が信頼したくなる、思わず信頼してしまう対話エージェント」の形を日々研究しています。

例えば、遠隔でオペレーターがロボットを操作し、案内や接客を行う技術や、対話技術・通行人の注意を惹き付ける行動生成技術・人の行動を変えるインタラクション設計技術・感情を伴った音声の変換などです。そういった研究を元に、様々なフィールド企業と連携をして実証実験を行い、社会実装に向け活動をしています。

 動画「接客対話エージェント - ヒトが信頼するインタラクション研究」より ロボット声かけ実験
動画「接客対話エージェント - ヒトが信頼するインタラクション研究」より ロボット声かけ実験

── 新たなマーケティング手法の1つとして、ロボットの活用が期待されているのですね。
 

氏名

馬場

はい。そしてロボットが社会に浸透するために大事なのは、人間や機械端末にはできなくて、「ロボットだからこそできること」に着目することです。例えば、店舗の売り場で商品を勧めるシーンを想像してみてください。

積極的に話しかけてくる販売員がいる場合、商品説明やアドバイスを求めている人にとっては、販売員の積極的な声掛けの影響力は高いですが、1人でゆっくり買い物をしたい方もいるでしょう。反対に、タブレットなどの機械端末は用がないと触りすらしません。

この人間と機械端末の中間に位置するロボットは、「人に働きかけやすく、期待を超えた新しい体験」を与えられる可能性があります。まさにこれはマーケティングそのものですよね。

── 「期待を超えた新しい体験」とはどのようなものですか?
 

氏名

岩本

過去の実験では、ロボットと楽しく会話する中で商品に興味を持ち、購入して下さる方々がいらっしゃいました。
「疑問にすぐ答えてくれる」「商品がある場所を教えてくれる」などの情報提供以外にも、ロボット自体の愛らしい外見や振る舞いにより、買い物が楽しくなったり、話に聞き入ったりと今までの体験にはなかったことも実現されると思っています。

我々はロボットを情報提供の機械として扱うのではなく、「ユーザそれぞれの心に響くもの、本当に合うものを一緒に見つける」存在にすることを目指しています。

 動画「接客対話エージェント - ヒトが信頼するインタラクション研究」より ホテルでの「おもてなしロボット」の実験
動画「接客対話エージェント - ヒトが信頼するインタラクション研究」より ホテルでの「おもてなしロボット」の実験

好きなことに夢中になれる AI Lab研究員の働き方

── この大きな取り組みを、実現するための研究体制について教えてください。
 

氏名

現在、AI Labには20名ほどの研究員が在籍しています。領域は大きく分けて4つあり、私たちは4名のチーム(2021年3月時点)でHCI(Human Computer Interaction)やHAI(Human Agent Interaction)と呼ばれる領域で、対話やインタラクションに関する研究をしています。

冒頭でお話しした通り、石黒研究室との取り組みが研究を加速させるエンジンとなっており、全員大阪大学に常駐する形で勤務し、チームのうち2名は石黒研究室で社会人博士を取得中です。

チームの様子(2021年3月時点)
チームの様子(2021年3月時点)

── 石黒研究室に社会人博士として所属するメンバーはどのように、博士の研究を両立しているのですか?
 

氏名

尾崎

ありがたいことに、現状ではAI Lab研究員として取り組む研究と、社会人博士として取り組む研究が同じであるため、両立することに特に苦労はしていません。また、チームから理解をしてもらえる環境であること、さらに大学に常駐していることで気軽に先生へ相談できることから、非常にやりやすさを感じます。

 動画「接客対話エージェント - ヒトが信頼するインタラクション研究」より 大阪大学との共同研究講座
動画「接客対話エージェント - ヒトが信頼するインタラクション研究」より 大阪大学との共同研究講座

── 研究テーマは研究者自身が決めたり、事業の方向性から経営陣と決めていくパターンがあると聞きました。企業での研究活動、その面白さややりがいを教えてください
 

氏名

岩本

企業での研究は「学術的価値」「企業価値」「社会価値」のバランスが重要です。我々の実験は、実際に営業中の店舗や商業施設で行うことが多いので、うまく実験が進むと、学術的にも企業的にも社会的にも大きな成果を生み出すことができます。特に今の研究では、何度もその体験をすることができているので、とても面白いですね。

氏名

尾崎

私はカメラを用いてロボット周辺の環境や人の状態を認識する研究に現在注力していますが、これが非常に難しいのです。最近は深層学習の発展により比較的精度が高くなりましたが、ロボットのような限られた計算能力を持つ存在に深層学習を用いるのは、負担が大きいという問題があります。

その問題を解決できるようにハードウェアやソフトウェアの選定を始め、アルゴリズム設計を行うところに自分の力量が試されている気がしますね(笑)また、そういった検討内容の一部を論文やブログなどで発信することで反響が得られるのも嬉しいです。

 動画「接客対話エージェント - ヒトが信頼するインタラクション研究」より 状況認識などの研究
動画「接客対話エージェント - ヒトが信頼するインタラクション研究」より 状況認識などの研究

── 反対に、大変な点があれば教えてください。
 

氏名

やはり学術とビジネスのバランスを取ることは、やりがいでもあり、難易度が高く大変な点でもあります学術的には、今まで解決されていない問題点に力を入れて、新しい知識の発見に向けて研究を行うことが大事ですが、一方でビジネス的な観点では、知識をどのようにプロダクト化・サービス化していくかが重要となります。

企業の研究者は、その両方を常に念頭に置きつつ、企業のみならず社会に対して大きな貢献ができるように研究活動を日々行っています。あとは、スピード感も必要とされますね。

人とロボットが共存できる世界を目指す上で欠かせない、「生々しい課題」

── これまでどのようなフィールド実験を行ってきたのですか?
 

氏名

馬場

この4年で、気が付けば18ものフィールド実験を行ってきました。フィールド実験の例を挙げると、

・操作者の能力を拡張させることを目的とした「おもてなしロボット(東急不動産HDとの共同プロジェクト)
・人を立ち止まらせる対話技術をつくることを目的とした「声かけロボット(@「アジア太平洋トレードセンター」)
・新しい働き方や接客サービスの拡充の実現を目指す「遠隔操作ロボット」や「館内案内ロボット(@東京ポートシティ竹芝、@心斎橋パルコ)

などの実証実験を行ってきました。研究の詳細はHPをご覧ください。

── 「人はロボットを信頼するのか?」を切り口にした婚活ロボットパーティの実証実験も話題になりましたね
 

氏名

岩本

「対話エージェントへの信頼感の醸成」を目的に、「ロボットを使った人間が会話を行わない婚活パーティ」というイベントも他企業と共に開催しました。TVニュースをはじめ、海外からも多くの反響があり、「ロボットが本人の情報を使い適切に対話をすると、人はロボットを信頼し、意思決定に影響を与える」といった結果も得ることができました。

氏名

馬場

私たちが様々な企業と連携して実験を行っている理由は、人とロボットが共存できる世界を目指す上で、「生々しい」課題を見つけるためです。例えば、ロボットが被験者に良い印象を与えることは学術的によく報告されていますが、実際にロボットを実フィールドに設置してみると、驚くほど多くの人がロボットに反応せずに通り過ぎてしまうという現状があります。

そもそも会話をする前の段階で大きな課題があるにも関わらず、その部分の技術開発はまだまだ足りていません。このように、実環境で試して初めて分かるリアルな反応の観察や、「生々しい」課題を発見し検証を行うフィールド実験は、実用性の担保のために欠かせません。

また、「試す」ことは研究室内でもよくやっていて、フィールド実験する前に研究室の先生方に、開発段階にあるプロトタイプのデモを見せる「デモデイ」を実施したり、不定期に様々な人を呼んで5分だけ試してもらったりしてます。作ってはレビューする・体験してもらうサイクルを早く繰り返すことが、対話エージェントの影響力を高める上で重要だと感じます。

── 生々しい課題が研究に活きる、と。多くの論文を国際会議やジャーナルへ投稿していますが、やはりそこが活かされているのでしょうか。
 

氏名

そうですね、実フィールドでの実証実験で得た課題は学術研究に活きています。私たちは国際会議やジャーナルへの論文執筆も積極的に行っており、これまでCHIIROSHRIなど対話エージェント界隈のトップカンファレンスで論文が採択され、発表を行ってきました。 国内外の学会で発表を行い、多くの研究者と積極的に議論を重ねることで新たな発見を得られることもあります。

フィールド実験だけでなく、学術的な面での活動もしっかりと取り組むことで、チームとしてのバリューもより生まれるのではないかなと思っています。学会参加後には、社内への共有会やAI Labのリサーチブログで学会に参加した記録や注目すべき論文などを積極的に発信することも欠かしません。

 動画「接客対話エージェント - ヒトが信頼するインタラクション研究」より 研究発表
動画「接客対話エージェント - ヒトが信頼するインタラクション研究」より 研究発表

誰もやったことのない新しい未来づくりに向けて

── 石黒教授と共に取組んでいる、内閣府主導の「ムーンショット計画」について教えてください
 

氏名

馬場

「ムーンショット研究開発制度」の一環で、石黒浩教授がPMを務める「誰もが自在に活躍できるアバター共生社会の実現」に対する、実証プロジェクトを進めています。「遠隔対話ロボットで働く」をテーマにした実証プロジェクト4つの実証実験のうち、3つが終わったところです。

保育園では「保育サービスの実現可能性」、スーパーマーケットでは「販売促進の可能性」など、フィールドごとに遠隔対話ロボットの特性を生かした活用方法を探ってきましたが、特にアミューズメントパークにおいて行った新しい「エンターテインメント提供の実現可能性」を探る実証実験では、予想以上の面白い反応が得られました。
残すところあと1つの実験を行ったのち、得られた結果や課題などは記者会見で詳細を発表する予定ですので、楽しみにしていてください。

「ムーンショット研究開発制度」の一環の実証実験の様子
「ムーンショット研究開発制度」の一環の実証実験の様子

── 調査結果の公開、楽しみです!最後に、チームとしてどのようなことを目指していきたいですか?
 

氏名

岩本

便利なだけではなくパートナーのような信頼できるロボットを生み出し、これまでになかった「購買体験」を社会実装したいです。購買体験全体の設計を行い、近い将来は現在のように単一の商品を推薦するだけではなく、店舗全体を通して満足してもらえる新たなシステムの研究を行っていきたいですね。

氏名

そのためには、ロボットが人間社会に溶け込むような世界観を作るのが大事なポイントだと思っています。これを実現するため、ロボットに圧倒的な表現力と存在感を出すことに注力してみたいです。
数多くのロボットが当たり前のように店舗にいて、ロボットが接客をするというファンタジーな世界も近い将来にはありえるかもしれません。

氏名

馬場

チームとしては、引き続き学術成果とビジネス成果の両方を目指すチームとして走り続けていきたいです。このような壮大な夢を一緒に叶えるには、まだまだ多くの仲間が必要だと思っています。

インタラクションの研究に興味がある方や、対話エージェントを社会に浸透させるための研究に少しでも興味がある方、とにかく面白いことをしたいという方、大歓迎です。学術研究もビジネス成果も実現する。次世代のデジタルマーケティングを一緒に創造するチームを、皆で作り上げていきたいと思っています。

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【こんな方におススメ】
・AI Labの研究環境に興味のある方
・企業で開発だけでなく研究/論文執筆を行いたい方
・転職を考えている方
・企業研究に興味をお持ちの方
・インターンに興味がある方

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