ゼロから始めたARコミュニティが
事業貢献につながるまで

技術・デザイン

Profile

  • 岩﨑 謙汰 (イワサキ ケンタ)
    株式会社サイバーエージェント AI事業本部  Future Live事業/株式会社CyberHuman Productions

  • 服部 智 (ハットリ サトシ)
    株式会社AbemaTV 開発本部
    株式会社AbemaTV 開発本部 開発局 New Device

個人で立ち上げたARコミュニティが業界で注目される存在になった

― 今回、xR開発者向けイベント「xR Developers Community Conference」を企画し、登壇もされてましたね。開催に至るまでの経緯を教えてください。

岩崎:まずxRとは「VR/AR/MRの総称」を指します。今回の「xR Developers Community Conference」(以下xRDCC)は、「xR Tech Tokyo」「HoloLens ミートアップ」「VRM勉強会」「withARハッカソン」という4つの開発者向けコミュニティによる合同イベントでした。

その中の「withARハッカソン」は、私が社外のメンバーと2019年10月頃に立ち上げたコミュニティです。「ARエンジニア/クリエイターの好奇心を引き出したい」「ARの可能性は異業種とのコラボレーションにある」という2つの思いから始めました。様々な業種とのコラボをメインとしたハッカソンイベントで、月1回ぐらいのペースで開催してきました。

※ 映像クリエイターwithARハッカソンの様子
※ 映像クリエイターwithARハッカソンの様子

回を重ねるにつれイベントの規模も徐々に大きくなり、4月に開催した「新型コロナwithARハッカソン」は新型コロナ対策のAR作品を作って発表しYahoo!ニュースなど様々なメディアに掲載されるなど注目を集めました。そんな中「xR Tech Tokyo」主催の@ikkouさんから「合同イベントをやりませんか」と声を掛けられたという経緯です。当日は、withARハッカソンの5つの登壇セッションの設計とファシリテーターを担当しました。

―「withARハッカソン」には服部さんも何度も参加されているそうですね。

服部:特に切り口が面白いなと思いハッカソンに参加しました。異業種を絡めて、かつ技術が分からない人にも刺さるようにという視点でアウトプットを作っている。自分にとっても「映像 × AR」など、興味を持って掘り下げていた内容をぶつける場として魅力的でした。この発表の流れで「xRDCC」での登壇も「映像×AR」に関する内容になりました。

岩崎:2020年2月に開催した「映像クリエイターwithARハッカソン」はエンジニアと映像クリエイターのどちらも満足度が高かったです。初めてARに触れる映像クリエイターの方の満足度が高かったことは、異業種とのコラボハッカソンを開催していく上で自信になりました。

他にも「空間デザインwithAR」や「日本酒withAR」、「ダンスwithAR」などのハッカソンを開催しました。ARの良さはリアルの価値を拡張することだと思っているので、ARによって良さを引き出せる組み合わせをテーマとして選ぶことを意識しています。これからも、実験のつもりで様々な組み合わせにチャレンジしていきたいです。

xRギルドの活動と、サイバーエージェントにおけるxR導入事例

―会社としてのxRへの取り組みについて教えてください。

服部:サイバーエージェントには「CAゼミ制度」という社内ゼミ制度があり、私と岩崎はそのゼミの1つ「xRギルド」で共に活動しています。同じ部署でARの業務に携わっていたわけではなく、AR・xRをやりたい有志の集まりで生まれた繋がりです。「xRDCC」で登壇した伏木も同じくxRギルドのメンバーです。

「CAゼミ制度」は、そこで得た成果を、サイバーエージェントの事業に繋げることを明確な目標として掲げている点が通常の勉強会とは異なります。例えば「ABEMA」競輪チャンネルの番組で使われるレース予想の解説用ARアプリ(※1)は「xRギルド」で開発したものです。

※1 参考記事:iPhone1台で「AbemaTV」競輪チャンネルのレース予想解説をAR化 XRの可能性を事業課題で示したXRギルド

「xRギルド」を立ち上げた2017年当時は社内にxR事例が少なく、「xRギルド」を設立した目的には「社内外でxRのプレゼンスを高める」という狙いがありました。ただ最近ではAR的な表現や事例が増えています。

Tokyo Virtual Runway Liveの様子。リアルタイムの3DCG合成で華やかなファッションショーのランウェイを再現している

岩崎:例えば2020年6月に開催された「Tokyo Virtual Runway Live by GirlsAward」(※2)はフル3DCG空間のバーチャルファッションショーとしてクオリティも高く、業界的にもインパクトを残せたのではないでしょうか。Virtual Runwayは私が今取組んでいるCyberHuman Productions(以下、CHP)の「Future Live」事業(※3)における先駆け的なイベントでした。Future Liveは1つのAR表現として、ビジネス的にも大きな可能性があると私は考えています。

※3 【バーチャル撮影】CHP Lab. 普通のグリーンバックとの違い
CHPが取り組んでいる「Future Live」。前後関係、透過、映り込みを再現した3DCG背景と人物をリアルタイムで合成して撮影できる

Future Liveはリアルタイムで3DCGを合成して撮影し「ABEMA」やその他動画配信プラットフォームに配信する事業です。その中で私は3DCGアーティストとスタジオのバーチャル撮影をつなぐワークフローを整える業務に携わっています。

業務内容は多岐にわたりますが、オンラインのイベントやライブにおいて表現を安定させることと、より多様な表現ができるようにすること。この2つが主なミッションです。

例えば「こういう表現がしたい」という意見や要望に対し、どのような技術、ワークフローで達成するのが最善か考え、チームに提案し実行します。ワークフローを考えるということは技術選択だけでなく、一緒に働くメンバーのスキルや性格をイメージしながら、現場に浸透させるまでやりきらなければなりません。時によっては勉強会の開催なども行います。

例えば、CHPに所属する3DCGのアーティストやデザイナーはプリレンダリングのCG制作の経験値が高く、私は心からリスペクトしています。しかし、Future Liveのようなリアルタイムのライブ演出やエンジニアリング的発想について経験値が浅いメンバーもいます。

私はそのようなメンバーの経験値や性格を踏まえて技術選定やリアルタイムエンジンの使い方をサポートしています。最近ですと、SVNによるバージョン管理、処理負荷計測のツール化、バーチャル撮影のオペレーションの最適化など取り組んでいます。エンジニアにとっては当たり前でも、CG制作では当たり前でないことがたくさんあります。そのことを理解したうえでFuture Liveのワークフローを進化させていきます。

Future Liveでのエンジニアの働き方については先日のBit Valley2020でも登壇させていただきました。

このような働き方が自然とできるのはwithARハッカソンでの経験が大きいです。異業種とARのコラボにより新しい価値を創っていく動きは私の得意分野になっていました。

また、競輪チャンネルやFuture Live等のAR事例と今回の「xRDCC」の登壇により、サイバーエージェントに所属しているエンジニアが、xR分野、特にARを重視しているというメッセージを業界に伝えることができました。

服部:同時に「xRギルド」も活動内容や社内での役割が変わってくると考えています。これまでは「社内外のxRのプレゼンスを高める」ことが目的でしたが、今後は個別のxR事例を頑張っていけば、必然的にその目的が達成されていくことになるからです。

岩崎:ただARという技術をしっかり理解していないと良い企画が生まれにくいと思うので、その意味では引き続き社内外への啓蒙活動も必要だと考えています。

例えば、2020年の2月にはサイバーエージェントのビジネス職とxRギルドでコラボレーションして、ARインプット会とアイデアソンを実施しました。

ビジネス職ならではの事業視点のアイデアをベースに技術職の実現可能性を踏まえた案が生まれ、非常に有意義な会になりました。
 

先端技術の事業化の波が来た時に、秒速で動けるための居場所

―ARに限らず、先端的な分野は事業化までにとても時間がかかると思います。

岩崎:Future Live事業の躍進は新型コロナウィルスにより観客を呼べないという音楽アーティストや物理的なイベントの開催が難しいという問題解決がきっかけでしたが「ABEMAのPayPerView」という収益手段や、3DCGのリアルタイム合成が可能な「バーチャル撮影システム」がなければ実現できませんでした。

今後大きく伸びると予想される技術分野にしっかり投資して準備していることはテックカンパニーとして大事なことです。そして実際に先端的な分野が時流とともにビジネスとして検討され事業化されていくことも。しかし、自分が関わることができるかどうかについては運や巡り合わせの要素も大きいと思います。

エンジニアとしては事業に携わる中でスキルを磨いていくのが王道だと思います。その意味では私がCHPのFuture Live事業など、業務の中でARに関われることはとても幸運なことですし、これまでARについて発信をし続けた事が良かったのではと思っています。そして仮に事業化されていなかった場合でも、自分で事業以外の居場所や活動場所を作り、ARに深くコミットする時間を確保する姿勢も大事だと思っています。

それが私の場合はxRギルドであり、withARハッカソンでした。

服部:個人で草の根的に始めたことが周りを巻き込んでいき、それが実を結んで事業が成立したり、新しい制度ができるというのは非常にサイバーエージェント的な文化ですよね。xRギルドもそういう形で成立した「CAゼミ制度」の1つですから。

―最後に今後の活動や目標についてお聞かせください。

服部:xRギルドの責任者としては、先ほども触れたように今後のxRギルドは「社内外のxRのプレゼンスを高める」という当初の目的とは少し方向性が変わるかもしれないと思っています。ただ機能拡張の面でまだやれる余地は残っているので、今後はそこで先鋭的な事例をどんどん作っていく、というのを大まかな方向性としては考えています。

個人としては、ARを使った新しい映像表現や新しい体験、新しい機能やUI・UXといったものは常に掘り下げて考えていますし、例えばZoom等で使えるような仮想カメラもARや現実拡張という文脈で深掘りしたりしています。また9月に「iOSDC」というSwiftのカンファレンスに仮想カメラの内容で登壇する予定です。

岩崎:5年連続で登壇されるんですよね。すごいなと思います。

私にとって今回「xRDCC」にオーガナイザーとして参加したことは、個人的には非常に大きな出来事でした。自分がゼロから仲間と立ち上げた「withARハッカソン」というコミュニティが、xR業界で認識されたということがとても嬉しかったですね。

また初期のころからコミュニティに貢献してくれた服部や伏木には本当に感謝しているので、2人のエンジニアとしてのプレゼンスを高めるような登壇という場を提供できたことも幸せなことだったなと思います。

新型コロナによる自粛下という現在の情勢は大変なことですが、Future Live事業にとっては大きなチャンスでもあります。エンジニアとしてCHPメンバーの技術とクリエイティブ力を最大限に発揮できるようなワークフローを創り、新しい当たり前を創っていると誇れるようなFuture Liveにしていくことが目標です。今のメンバーなら必ず成し遂げられると思っています。

また、今サイバーエージェントが取り組んでいるAR事業はFuture Liveや競輪チャンネルなどの映像体験が主流でしたが、最近はARグラスを用いたりと、AR領域のブランド体験ユースケースを探求する共同プロジェクト事例なども増えてきてきました。このARグラスが広く普及した時には時代が大きく変わり、様々な企業が本格的にAR領域に参入するでしょう。
その時に、社内外でARのキーマンになれるように、エンジニアとしてスキルと経験を磨き続けていきたいと思っています。
 

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※本記事は、9月に行われた社内カンファレンス「CA BASE CAMP 2020」の発表内容を編集したものです。

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