技術・デザイン

東京藝術大学と「原点回帰プロジェクト」始動。
クリエイターの潜在能力を引き出すアートワークとは?

東京藝大とサイバーエージェントが、初めての産学連携に取り組みます。「モノづくり」の未来を担う人材が集まる藝大と、現代の「モノづくり」を実践しつづけるサイバーエージェント。このふたつがコラボレーションし、『創作活動の原点回帰』をテーマに、モノづくりの根幹を掘り返す企画になる予定です。
デジタルなモノが日常に浸透し、人々の生活が変化を続ける今において、クリエイティブとはいったい何か。モノづくりの現状と、本企画の意図や今後の可能性について、企画立案メンバーに話を伺いました。

Profile

  • 松下 計(マツシタ ケイ)
    東京藝術大学美術学部教授。同大学附属図書館館長、2018年副学部長就任。美術学部デザイン科では視覚・伝達研究室にて平面媒体に限らず広く視覚を介するコミュニケーション全般の研究に従事。2020年東京オリンピックのエンブレム選考委員も務める。

  • 山崎 宣由(ヤマザキ ノブヨシ)
    東京藝術大学美術学部准教授。95年に同大学院美術研究科デザイン専攻修了後はNECにてプロダクトデザインや同社デザインセンター長を務める。2016年より現職。デザイン科では機能・演出研究室にてソリューションデザインを起点に製品及びサービスの価値創造の研究に従事。

  • 竹田 彰吾(タケダ ショウゴ)
    サイバーエージェントゲーム事業本部クリエイティブ最高責任者/CCO。
    2010年に東京藝術大学を卒業後、サイバーエージェントに新卒入社。新卒1年目で株式会社アプリボットの立ち上げに参画し、取締役CCOに就任。現在はゲーム部門全体のクリエイティブ責任者も兼任。

  • 庄司 拓弥(ショウジ タクヤ)
    サイバーエージェントゲーム子会社クオリアーツ クリエイティブ責任者。
    2009年に東京藝術大学卒業後、新卒でデザイナーとしてサイバーエージェントへ入社。モバイルゲーム、スマホカードゲームの開発運用を経て、現在は株式会社QualiArtsのクリエイティブ責任者として従事。

藝大とサイバーエージェント、クリエイティブの類似性

─藝大とサイバーエージェントの共同企画です。今回なぜ一緒にやろうと?
 
竹田 実は、サイバーエージェントで活躍するクリエイターの中には、藝大卒業生が多いんですよ。藝大の文化とサイバーエージェントの文化で似ている部分があることも理由の一つかもしれません。

僕も藝大OBですが、在学中を振り返ると、課題期間が長いこともあり、作品の方向性や時間配分など、自分で考えて深く作品と向き合う時間が長かったです。
サイバーエージェントでも、上からの指示で決まったものを作るのではなく、自分達でプロダクトや市場と向き合って、考えながら前進していかなければいけない。この点では藝大の時に培った考える土台が、今とても活かされていると思います。

あと、藝大には小さな頃から「クリエイティブの分野でナンバーワンになりたい」という人が多い。僕もそうだったので、就職の面接で「世界一のクリエイターになりたいんです!」と発言したら「なに言ってるんだこいつ」という目で見てくる人たちがたくさんいました。でもサイバーエージェントでは、真剣に聞いてくれたし、「一緒にやろう!」と応援してくれたのを今でも覚えています。藝大とサイバーエージェントは、高い目標を持つことをむしろ推奨してくれる環境なので、その点でも親和性が高いと感じました。

山崎氏(以下、敬称略) 僕はサイバーエージェントの方々に会って、自分の会社についてこれだけ熱く語れる人に今まで会ったことがあるかな、と感動したんです。会社の方向性や自分の立場、未来へのメッセージを強く持っている。いったいどうしてそんなにモチベーションがあるのか、彼らのようにクリエイティビティを高めるためにはなにが必要なのか……ものすごく興味があります。今回、それも見てみたい!

松下氏(以下、敬称略) サイバーエージェントさんはエージェント(代理)と言うわりに、自分たちでコンテンツを作っているんですよね。モノをつくる大学としては、本当にモノをつくっている企業の光を感じています。この企画を通して、お互いにより良い関係をつくれるんじゃないかと期待しています。

─今企画は『創作活動の原点回帰』がテーマです。具体的にはどんなことをするんですか?
 
山崎 学生20名、社員10名ほどで伊豆半島の無人エリアで一泊し、そこでの体感、体験をとおして自分の「心地の良さ」をとことん探求してもらいます。このワークショップで制作される作品に求められるのは、大勢の人に評価される作品ではなく、いかに自らの殻を破り、「普段の発想法から離れる」ことができるかが重要です。何度も何度も新しい表現と発想の可能性を探り、新しい気付きを得てほしい。

松下 「居場所」とは“衣食住”という人間の基礎がテーマになっていて、やっぱり人は、美味しいものを食べたり、肌触りのいいものを着たりして得られる身体感覚をベースに欲求が起こるはずなんです。今の社会にはデジタルなものが多いし、サイバーエージェントさんというデジタルコンテンツを扱う企業と一緒に人間の原点に取り組むことは、とても意義があると思うんですよ。

竹田 サイバーエージェントはデジタルの分野でモノづくりをしていますが、一番大事にしているのは、アナログな「人」の部分なんです。組織もユーザーも人で成り立っていて、常に人のためにモノづくりをしている。なので、今回のテーマである「自分の心地いい空間」と、自分の身一つで向き合うことは、クリエイターの本質に触れるいい機会なんじゃないかと思います。

山崎 そうですね。最近はデジタルの中にパーソナルスペースがあるけど、布団にもぐったり、トイレに籠ったりする時の、自分の体温が反射する距離感に居心地のいい場所があるんじゃないかな。だから、なにもない野原で、居心地の良い場所について想いや発想をめぐらすことで、改めて自分自身の欲求を知ることができると思います。
 
─日帰りではなく宿泊であることに、どんな意図がありますか?
 
山崎 もともと藝大には合宿的なワークが多いですね。僕のゼミでも山小屋に宿泊して焚き火を囲んで話したりします。

竹田 サイバーエージェントも合宿文化があるので、泊まりのイベントには慣れているんですよ。ちゃんとコミュニケーションをとるには、他の情報と遮断されて向き合うことがとても大事。今回の企画では、「居場所をつくる」というモノづくりのプロセスや、自分の潜在的な欲求に向き合うためにコミュニケーションとることに意味がある。宿泊することで、普段できない体験を長時間共有し、その時間の密度も濃くできる狙いがあります。

山崎 合宿は、自発的に気づくプログラムをおこなうのに適していますからね。ふだん学生たちに「思っていることを話して」と言っても、すぐには話せないけれど、一緒に長い時間を過ごしているとそのうち言いたいことが整理できて、言葉にできるタイミングが来る。だから長い時間を共に過ごすのは良いことだと思います。

庄司 参加するサイバーエージェントの社員自身も、学生と同じように同じ場所で過ごして原点回帰することで、野性味を感じるはず。とにかく全力でコミットしていきます。

学生の潜在能力を引き出すワークにしたい

─数ある産学連携プロジェクトのなかでもかなり特殊だと思いますが、その目的は?
 
山崎 ええ、ちょっと特異ですよね。たいていの産学連携は、企業さんが学生ならではの発想を求めたり、先生の知見や専門性を活用したいという意図があるんです。でも今回は、企業と学生が一緒になにかを創ってみよう、学生たちの潜在的な能力を引き出して可能性がどれくらいあるかを客観的に見てみよう、というプログラム。できあがったものが大事なんじゃないんですよ。学生に潜在的な能力があることを改めて発見したい。今の学生って要領がいいから、なにもないところから新しいコンテンツを探すという不便な体験の場をつくりたいんですよね。
 
─「今の学生は要領がいい」というのはどういうことでしょう。それはモノづくりに影響しますか?
 
山崎 手っ取り早くかっこよく見せることにすごく長けているんですよ。ある学生が「調べものをして、答えが見つからないととても不安になる」と言っていたんですが、今はなんでもネットで調べれば何かしらの答えがさっと出てくる。ネットがない時は、わざわざ大きな図書館に行って頑張って調べても結局答えが出なくて……という模索のなかで、たまたま違うものを見つけて「あ、こっちの方がいいかな!」という揺らぎや、予期せぬ発見があった。でも今の学生は近道で答えを探して、「目的を達成してなんぼ」という感覚が強い。賢くて、要領がいいんです。それだととてもロジカルに効率的に答えを探せるんだけど、見逃してしまうことがたくさんある。もっと遠回りをして、大失敗してもいいんじゃないかなと思うんです。

松下 今の学生は時間がないんでしょうね。教える立場としても、ソーシャルやエシカルなど、伝えなくちゃいけないことが多い。そうすると要領がいい分、インプットがうまくて受け身になってしまっています。

竹田 仕事における技術や要領の良さって、後からいくらでも身につくんですよね。それよりも必要なのは、否定されても悔しさをバネに頑張れるような、人間の根本的な力。モノづくりは99%がしんどいものですから、その世界で活躍している人は、前進するためのエネルギーを持って苦しみを乗り越えていける人たちです。

庄司 最終的には、精神的なタフネスさが大事ですよね。今回の企画で学生のそういうところまで引き出せたら大成功です。きっと見えないだけで、クリエイターとしての本質は持っているはずなんですよ。

松下 あえて「自分の本質を自分でつくる」ことに特化したプログラムを用意しているので、この合宿をきっかけに、社会に必要な『能動的なデザイン態度』を手にしてほしいですね。すごく凹んじゃう学生もいるかもしれないけど、それはそれでいい。

モノづくりにはもっと裾野が広い可能性がある

─ここまで学生にとっての意義を伺ってきましたが、サイバーエージェントは今回の企画でなにを目指していますか?
 
竹田 まずひとつは、学生の潜在的な能力を引き出し、可能性のある方々とたくさん出会えるといいですね。僕たちの職場は、モノをつくる時に縦も横も関係なく、部署や利害関係を越えて、連結して協力する。そうやって人と人がちゃんと繋がってモノづくりをするには、まず自分のことを理解していないと相手に伝えられません。だから自分の本質としっかり向き合って、そのうえで他人と繋がりを持つことが大事。僕たちはこれをよく「人間力」と言います。人間力と、先が見えなくても高い目標を目指して前進し続ける力……このふたつをとても大切にする文化が、藝大には脈々と受け継がれていると信じているので、ぜひそれを見てみたいです。

庄司 やっぱり興味を持って相手のことを知って、自己開示して強さも弱さも見せ合うことで信頼関係がうまれて、チームワークが大切にできる。それがサイバーエージェントのベースにあります。そのうえで、モノづくりを達成するためのハングリー精神が見たいし、僕らも出したいですね。

竹田 もうひとつは、世の中にはクリエイターが活躍できる場がたくさんあるということを学生に知ってほしい。僕が大学生の時は、インターネットやスマートフォンの分野でクリエイターが大きく活躍できるなんて、みんな考えてもいなかった。でも時代は変化し、クリエイターの可能性も同じように広がっているんです。

─クリエイティブといっても、現場によって多少異なると思います。サイバーエージェントのクリエイティビティの特徴はどんなところにあるのでしょう?
 
山崎 外からの印象だと、組織として特徴的なんですよ。サイバーエージェントの方々はモチベーションがすごく高い。社員それぞれが自分でチャレンジできると同時に、責任を自分でとらなきゃいけないことは、やりがいにも繋がるんでしょうね。多くの企業は、組織がしっかりしていることによって連絡系統が決まっているから、逆にストレスになってしまう構造がよくあると思うんです。

松下 たいていの組織は企業も大学も、効率を重要視するほどに個人の考えがつぶされていって「お前の話はいいから組織の話を」となっちゃうよね。「アースアンドソルト」という言葉があるけれど、本来、社会と個人は等価に扱うことが大事なんです。いくら洗練されたマーケティングの手法であっても、自分が熱くなってないのに人を熱くさせられないと思う。

庄司 そうなんですよね。

松下 サイバーエージェントさんは今や巨大な組織なのに、それができている。社会と個人を相似形として扱っているので、その姿勢は、我々の信じていることと符号します。同時に「それでほんとに大企業としてやっていけるの?」という個人的な興味もある(笑)。

山崎 そこに藝大が目指すヒントがある気がしますね。サイバーエージェントさんが社員個人個人を立たせているような育て方を、藝大もしなきゃいけないはずなんですよ。

竹田 人数が増えるにつれ、どうしても避けられない問題は次々と出てきますよ。ただ、現場の新卒に起こっている問題でも、僕らがかなり精度高く理解できている自信があるので、ちゃんと向き合い続けることが大事。組織形態も、やり方も、自分たちの理想すらも、話しながら形を変えています。「これでいいな」と満足したら、衰退しちゃう。

庄司 うん、動くことをやめない限り、成長し続けられる。

竹田 今回の藝大との産学連携企画も、僕たちが必要だからやるべきだと思って、自分達で決断してアクションしている。
自分で考えて、コミュニケーションをして動かしていくことがモノづくりであり、クリエイターの本質だと思います。

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