技術・デザイン

UXエンジニアとアクセシビリティエバンジェリストによる品質と開発速度が担保されたチームのつくりかた

Developer Experts 谷 拓樹、桝田 草一

サイバーエージェントには、特定の分野に抜きん出た知識とスキルを持ち、その領域の第一人者として実績を上げているエンジニアに、新たな活躍の場を提供するとともに、各専門領域において、その分野の発展のための貢献・サイバーエージェントグループへ還元することを目指すための「Developer Experts制度」が存在します。現在は5名のエンジニアがDeveloper Expertsに任命されており、FEATUReSで順にご紹介していきます。

今回は「UXデザイン」の谷と「アクセシビリティ」の桝田による対談をお届けします。
 

Profile

  • 谷 拓樹 (タニ ヒロキ)
    メディア部門でのフロントエンドエンジニア、UXエンジニア。中小企業向けの事業ベンチャーから、フリーランスでの受託、サイバーエージェントへ。その他講演活動、技術書の執筆もおこなう。
    twitter:@hiloki
    github

  • 桝田 草一 (マスダ ソウイチ)
    ウェブフロントエンドデベロッパー / アクセシビリティエバンジェリスト
    エンジニアリング企業のセールスからウェブ業界に転身し、デジパ株式会社でマークアップエンジニア、ウェブディレクターを経験後、2017年1月にサイバーエージェントに入社。生放送プラットフォームサービス「FRESH LIVE」のウェブフロントエンド開発を経て、現在は新規サービスの開発、社内外でのアクセシビリティの啓蒙・推進に従事している。
    WAIC(ウェブアクセシビリティ基盤委員会)作業部会2(実装)委員 / #deisui_html_radio の分かり手担当
    twitter:@masuP9
    masup.net

職種のカテゴリーがなくなりつつある時代で

一連のFEATUReSの記事で様々な社員が「職種のカテゴリーがなくなりつつある。」と語っています。エンジニアでありながらデザイナーでもある二人はどう考えていますか?

桝田:デザイナーという仕事の幅も、すごく広がってきていますよね。「ここまでがデザイナーの仕事」という境界線がなくなりつつあるのを感じます。

例えば、顧客や経営者にデザインコンセプトを説明して、デザインの方向性の合意をとりつけたりするなど、デザインを制作する仕事以外にも多くの役割が求められるようになってきました。

そのためにリサーチやペルソナ作りが必要になったり、場合によってはエンジニアリングも理解する必要があったりなど。

谷:その一方、デザイナーという職種自体は細分化し始めているのが世界的な流れでもありますよね。エンジニアの職種で例えるなら、インフラ、サーバーサイド、クライアント、Webフロント、マシンラーニング等々。それぞれ領域によって専門が分かれているのがエンジニアですが、それに近い感じになってきつつありますよね。

桝田:確かに。海外の企業を見てみると、デザイナーの役割に関してもかなり細かく定義するようになってきましたね。例えばGoogleは「UXデザイナー」という職種の募集ひとつとっても「UXライティング」や「UXエンジニア」「リサーチ」など細かく職種を分けた上で役割を定義していたり。

UXデザイナーという職種は存在しなくなる? 

谷:FacebookやAirbnb、Spotifyなど海外の名立たる企業の多くで、デザイナーという職種の細分化が始まっていて、この流れは国内にも波及するのではと思っています。

桝田:デザイナーという職種の中では領域が細分化しつつも、職種を超えて活躍する人も増えてきましたよね。

例えば、先日の「OnScreen Typography Day 2019 (※)」でご一緒した有馬トモユキさんは、色んなことができて、スーパーデザイナーみたいな方だなぁと。

※ OnScreen Typography Day 2019:ウェブを中心とした「オンスクリーンメディア」 のタイポグラフィについて広く扱うセミナーイベント。2019年6月9日に「Abema Towers」にて開催し、桝田もスピーカーとして登壇。

有馬さんは人工言語を作ろうとしていたり、Unityを触っていたり、フォントのデザインもする。かと思えば書籍の組版も手掛けつつ、クリエイティブディレクターもされる方で、それらすべてを「デザイン」と捉えられていました。

谷:もしかしたら、デザイナーの職種の垣根が曖昧になってきているのは、一つの大きな流れなのかもしれませんね。まさにiOSやAndroidエンジニアが、専門性を高めつつサーバーサイドやUIに職域を広げていき、よりビジネス課題を解決できるエンジニア(※)になっていくみたいな流れに近いのかもしれません。

インターネットテレビ局「AbemaTV」の開発スタンダードは「ミッションベースのエンジニアリング」

職種の垣根がなくなりつつあるからこそ、職種間のコミュニケーションロスをなくしたい

ー 職種の垣根がなくなった人のリアルな働き方をおしえてください

桝田:境界線がなくなったうちの1人である谷さんはどう感じていますか?(笑)

谷:私自身の立ち位置でいうと、エンジニアとデザイナーの間に身を置いていると考えています。Googleなら「UXエンジニア」、Airbnbなら「デザインテクノロジスト」、国内企業の一部では「デザインエンジニア」と呼ばれるような役割です。

桝田:サイバーエージェントでの職種名はなんでしたっけ。

谷:実は決まっていなくて。「肩書はなんでもいい」(※)と言いつつもネーミングに悩んでます(笑)。

肩書きそのものはなんでもいいんだけど

桝田:ネーミングにこだわる気持ちはすごくわかります(笑)。

谷:そうなんですよ。名前を付けることで存在意義を主張できるので大事なんです。今は、デザイナーやエンジニアと同じレイヤーで、職種が確立できないか探っているところです。ここではいったん「UXエンジニア」と呼んでおきましょう。

桝田:その「UXエンジニア」はプロジェクトの中でどんな動きをしていますか?

谷:そうですね。例えばエンジニアが、あがってきたデザインに対し「How」、つまり「どうやって作るか」と考えるとします。その際「なぜそのデザインなのか」という「Why」をしっかり理解しないまま作った結果、デザイナーが考えていたイメージと微妙に異なるものが出来上がることがあります。

桝田:「あれ?デザインであげたものとちょっと違うんだけど」ってなりますよね。

谷:そういった職種間で生まれがちなコミュニケーションロスを「UXエンジニア」が先頭に立ってカバーしています。

プロダクトのクオリティの高さが事業の成功につながる時代において、デザイナーとエンジニアがお互いの領域を理解する必要が高まる一方、デザイナー側に直感的で抽象的な部分が多くなりがちです。だからこそデザインの言語化やデザインシステムといった部分が重視されます。そういった部分を担うのが我々「UXエンジニア」です。

特にプロダクトのデザインはデザイナーが担うべき仕事に思われがちですが、ビジネスやリサーチ、エンジニアリングなど様々な要素が関係するので、本来はあらゆる職種が責務を負うべき分野です。

そして様々な職種が絡み合うからこそミスコミュニケーションも発生しがちで、それを円滑にするために軸となるのが私の考える「UXエンジニア」の視点です。

本来の理想は「お互いがお互いの職種を理解していれば、UXエンジニアの役割は必要がなくなる」なので、そこまで組織をもっていきたいと思っています。

桝田:なるほど。実際のところ、職種間のコミュニケーションロスはどうしても発生してしまいますよね。だからこそ「UXエンジニア」が間に入ることで、職種間のハブになるメリットがあると思います。ただ、社内の全てのプロジェクトにそういった役割の人をはるわけにもいきませんよね。絶対数も少ないですし。

具体的に「こういうプロジェクトにはハブ役が必要だ」とかありますか?

谷:特に大規模なプロジェクト、また運用フェーズに入っているプロジェクトですね。私は「WinTicket」(※)というプロジェクトに入っています。

競輪のインターネット投票サービス「WinTicket」

会社の中で注力している大きなプロジェクトを動かす時、求められるのはクオリティとスピードの担保です。職種間のハブになる役割を担う人がいることで、クオリティとスピードを実現する骨格になり得ると思っています。

ー 桝田さんは「アクセシビリティ」の観点で感じていることはありますか?

桝田:「アクセシビリティ」は、様々な能力、または環境下にあるユーザーが、実際に手にとって触れる領域なので、いろんな職種やポジションの人の想いがぶつかります。

時にはデザイナーとエンジニアの意見が対立してしまうこともありますよね。「こんなのは工数的にできないよ」とか「いや、必要だからやってくれよ」と。

でもお互い大人だから折り合いを付けようとするんですよね。「ここまでだったらこの工数で実装できるよ」とか「そこの実現が難しいなら、このデザインに落ち着けましょうか」というように。

気が付くとデザイナーとエンジニアの2者間の落とし所になってしまい、結果としてユーザーが忘れられることがあります。

谷:すごくわかります。「この期間で実装できる、できない」とか「コストをどう折り合いつけようか」の話になり、「お互いそれなりに大変」くらいのところで落としどころを見つけようとしてしまうんですよね。

桝田:みんなプロダクトへの思いもあるんだけど、チームコミュニケーションもできているがゆえの罠ですね。

そういう時に「このデザイン改修はユーザーのアクセシビリティを向上させるから、工数をかけてでも実装しよう」と職種間に立って、ユーザー側を見たプロダクト開発を導ける人は、エンジニアとデザイナー2者間の関係性になるのを避けることができるので、貴重です。

僕の場合、ユーザー側を見る軸がアクセシビリティなんですね。

「アクセシビリティ的にはここまで担保できていれば大丈夫」と、もう1個軸を足す感じでユーザーのほうを見て話を進められるというか。そうするとエンジニアもデザイナーも「確かにそうだね」となったりすることも多いんです。

開発者の「自治権」は他職種との信頼関係でうまれる

ー 職種間におけるコミュニケーションという点だと、ビジネス職への理解も重要になってきますよね。例えば「アクセシビリティ」は売上に直接影響を与える分野ではないため、その必要性を認識してもらうのに、充分な説明が必要になる気がします。

桝田:「アクセシビリティ」を一般論から説明するなら、必ずしも売上と無関係ではないということを話します。プロダクトが使いやすければ滞在時間が増えるし、体験が良ければどんどん使ってもらえてリピートが増える、馴染みの無かった人が使えるようになればユーザーの母集団が増えますよとか。

最近だとアメリカである有名なアプリが「アクセシビリティが低い」ことで訴訟を起こされたニュースもあるので「グローバルを考えた時に訴訟リスクを低減できますよ」と、ビジネスに絡めて話をすることはもちろんあります。

ただ、そのアプローチは本質ではないと思っています。

ビジネス側と開発側は対立構造で捉えられがちですが、本質的に重要なのは職種間で相互理解が働いている状態に組織を維持することなんです。

それは「アクセシビリティ」や「コードのリファクタリング」「技術的負債の返却」など、直接ビジネスには結びつかないけれども重要な、技術やデザインの要素について、会社や組織の中でその必要性があたりまえのように認められている状態です。

谷:開発チームにとって「開発側の自治権」みたいなものは確立されている必要があるし、我々Developer Expertsにとっては、例えば「アクセシビリティを向上するとこういう効果があり、放置するとこういったリスクが生じることが予想されます」と説明する役割が求められます。

ー 「開発側の自治権」とはなんですか?

桝田:開発者がプロダクトのクオリティや健全性について、自分たちで裁量権をもって進められる体制です。

例えばラベルの統一やアクセシビリティ、表示パフォーマンスといった品質、コードリファクタリングをおざなりにすると、言われて追加した機能がまるでバベルの塔みたいに積み重なっていき、メンテナンス性の低いプロダクトと化していきます。機能の追加開発も遅くなっていくし、運用が続くにつれクオリティはどんどん劣化していき、最終的にはユーザー離れにつながっていくでしょう。

私は所属するCATS(CyberAgent Advanced Technology Studio)で、活動の何割かを品質のための作業に充てることができていますが、その仕組みは社内のどんなプロジェクトでも実現したいなと思っています。

ー 自治権がない状態だとプロジェクトはどうなりますか?

桝田:各職種で大事に思っていることが尊重されなくなり一つの価値観に統一されたとしたら行き着く先は、帰り際にマネージャーから「君、頼んだコード以外のコードを書いてるじゃないか、仕事してるの?」みたいに声かけられるマイクロマネジメントの世界観かもしれません。本当に嫌だと思うんです(笑)。

マイクロマネジメントになると管理する側が考えることしか実装されなくなってしまいます。エンジニアやデザイナーが「ここはこうしたほうが便利だな」「こうしておいたほうが将来役に立つかも」と、作り込んでいるうちに思いついたものも削ぎ落とされてしまうので。

谷:我々がやっている「UX」や「アクセシビリティ」は非機能要件なので、そうなると非常に可能性が狭まってしまいますよね。必要と思われていない、信頼されていないというのは悲しいですし。

桝田:まさにその通りで、対立構造になってしまいがちなステークホルダーと一緒に仕事をして、お互い価値観を認め合って信頼関係を築くのは本当に大切なんです。

そのために、開発側もきちんとして説明責任を果たす必要もありますし、ビジネス側がもとめる要件に対して真摯に向き合う必要もあります。

例えばちゃんと折衝した上でオンスケジュールにプロジェクトを進めるなど。時間とコストを約束して実現することは、信頼関係のために一番優先すべきことだと思うんです。

谷:Developer Expertsは技術で会社をリードするだけでなく、テクノロジーやデザインの必要性やビジョンを社内外に伝え、信頼関係を維持することが求められると思います。

そのためにも納期やコストなどビジネス要件を守れるチームでありたいですね。

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