技術・デザイン

共同研究は試供品?!価値ある産学連携の形とは?

イェール大学成田氏と考える、ラボ化する社会

AI Labの安井が米国コネチカット州にあるイェール大学まで、直接押しかけて本格的に始まった成田先生との産学連携。その後、「経済学・因果推論と機械学習の融合」について共同研究を進め、共著論文が人工知能分野で権威ある国際会議「AAAI 2019」にて採択されるなど、機械学習・経済学の両方の分野から注目を集めている。

現在も「経済学・因果推論と機械学習の融合」を加速させるために共同研究のみならず、様々な取組みを一緒に行うなどコラボを進めている。そんな2人が産学連携や経済学・社会科学、そして機械学習について対談を実施。
価値ある産学連携とは?そして、これからのラボ化する社会とは。

Profile

  • 成田悠輔
    イェール大学助教授、Jinch株式会社共同代表、一橋大学特任准教授、スタンフォード大学客員助教授、独立行政法人経済産業研究所客員研究員
    データ・アルゴリズム・数学を組みあわせて世の中の市場や制度をゼロから設計する「社会制度設計」と、世の中から出てきたデータを使って世界を織りなす因果関係を見つけ出す「因果機械学習」を研究。応用先は教育から広告まで。Ph.D.(マサチューセッツ工科大学)。共訳著に『ゲーム理論による社会科学の統合』『学校選択制のデザイン』(ともにNTT 出版)など。

  • 安井翔太
    サイバーエージェント AI Lab
    2013年Norwegian School of Economics MSc in Economics 修了後、サイバーエージェント入社。 入社後は広告代理事業にて広告効果検証等を行い、2015年にアドテクスタジオへ異動、以降はDMP・DSP・SSPと各種のアドテク商品においてデータを元にした意思決定のコンサルティング等を担当。 現在はAI LabのADEconグループのリーダを担当。

産学連携という座組みに物申す

安井
2017年にコネチカット州にあるイェール大学に押しかけ、共同研究をどのように発展させていくかを議論させて頂きました。その時に、「成果の出ないダサい産学連携はしない」という強烈なメッセージを頂いたのを今でも覚えています。産学連携に対して思うところとか、理想みたいなものってあるんでしょうか?

成田:
「産学連携」という言葉がなくなるような産学連携の進め方ができたらいいですよね。

「産」と「学」の「連携」というと、「産」と「学」という異なるものが片手間で連携してみようという空気が生まれてしまう。更には下手すると、産と学のどちらかがもてなす側で、どちらかがお客さんという不釣り合いな関係が生まれてしまう。ジリ貧の日本の学が産の安い下請けになっている場合、おしゃべり教授の戦略に無知な産がカモられている場合がその典型です。

そういった発注と下請けのような関係ではなく、「産」っぽい人と「学」っぽい人が飲み食いしていて、意味がある面白いと思った研究事業をはじめてみたら、結果として産学連携っぽいものになっていたという感じを醸造できるといいなと。

安井
今思い返してみると、この共同研究もまず「産」っぽい私と「学」っぽい成田さんで色々飲み食いし、企業でのデータ分析についてあれこれ議論する事から始まりましたね。そして身の引き締まるメッセージから一気にインセンティブを合わせ、矢田紘平さん(イェール大学の大学院生)も混えて集中して共同研究を取り組んだ結果が今に至っている気はしますね。
この辺りのインセンティブの違いを、仕組みでうまく解消する方法って何かあるんでしょうか?

※インセンティブ…人々の意思決定や行動を変化させるような要因のこと

成田:
「産」っぽい人と「学」っぽい人の興味やインセンティブが違いがちなのもたしかです。

興味とインセンティブの壁を超えるには、よくある人月や寄付講座名に対する定額の現金研究費に加え、共同研究の新しい形を探ると良い気がします。
たとえばこんなことがすぐ思いつきます:

-誰と共同研究するか決めるための競争入札
-株式による研究費支払い
-論文出版・知財・ビジネスKPIへの影響計測などの指標に紐づけたヘッジファンド型の研究費支払い 
こういったKPIを使った公式で報酬が決まるマイクロヘッジファンドを作る。報酬は企業のストックオプションや、新株予約権で支払い。
誰が参加するかは競争入札で決め、大学の研究者でも他の企業の副業研究者でもスーパー高校生でも隠居中の名誉教授でも参加できるようなイメージです。研究や実装については、すごい大学生の方がその辺の研究者より上だったりしますし。

安井
なるほど・・・支払う側が得る成果に応じて、お金が支払われる仕組みは良さそうですね。そして成果を出せるのであれば、別に誰が共同研究のマッチングに参加しても良いと。
例えば、今自分のチームでインターンにきている斎藤さん(@moshumoshu1205)は学部生ながら、独学で因果推論と機械学習の勉強をしていて、僕たちの共同研究のテーマに近い論文を既に国際学会で発表してたりします。そういった方々と組む事が自然になるような仕組みは、研究のコミュニティを活性化させる事にも繋がってきそうですね。株式での研究費支払いも、スタートアップ企業が共同研究を早期にはじめるための方法として非常に良さそうです。
 

一方でインセンティブの設計以外にも、研究の価値を計測・評価する部分に、多くの問題がある様に思えます。お金を支払う側は、「共同研究テーマの価値をしっかり判断する」必要があると思います。しかし、企業のデータサイエンティストでも、そのような判断が出来る方は限られていますね。
現状だとR&Dの責任者や経営者が、知恵と勇気でテーマの価値を見積もっていると思うので、この辺りの評価の仕組みは「産」っぽい人たちの課題としてありますね。

企業への価値に、学問の括りは関係ない

安井
私はデータサイエンティストとして機械学習を仕事で利用する事が多かったのですが、機械学習は基本的には予測のみを考慮するものであって、それを基にした意思決定についてはあまり考慮していません。
しかし、ビジネスでお金を産むのは「予測」そのものではなく、「予測を利用した意思決定」です。経済学で扱う因果推論やインセンティブ設計は、機械学習の行う予測と意思決定の間を埋める事に大きく貢献できると考えています。
そんな事を考えている中で、「経済学と機械学習」というテーマで共同研究が始まったのですが、成田さんとしては経済学のどういったところが企業の価値になると考えていたんでしょうか?

成田
まず、○○学という括りに関係なく、どんな考え方や技術も役に立つかもという姿勢でいたいです。
たとえば文化人類学者と計算機学者が一緒になって作った『見えない仕事(Ghost Work)』という本があります。
今のアルゴリズムでは除外しきれない黒い情報(ヘイト、ポルノ)を、見つけさせられている人間労働者の存在を告発する」という内容です。
鋭い告発や批判は、広報宣伝や危機管理とコインの裏表ですから、一見テック企業からは離れている思える人類学ですら、経営に役に立ちそうな気がしてきます。
「とりあえずAI、機械学習」といった「いかにも役に立ちそうな学問に全員ノリで乗っかっておこう」という現状 は、症状に関係なくみんな下剤を飲んでるみたいで不健康じゃないでしょうか。
なので、色んなサプリや化粧品を試してみるみたいに、「○○学の試供品」のような素材を提供する場所や人がもっとできるといい。
産学連携や共同研究が「○○学の試供品」のように働くといいと思います。


安井
なるほど、試供品として経済学を試してみたら面白いんじゃないかという感じでしょうか。成田先生との共同研究で「経済学の試供品」を提供してもらった我々は、経済学人材を採用している状態にあるので、継続的にサプリを飲み始めている状態と言えそうですね。
ちなみに「経済学の試供品」をサイバーエージェントに提供するにあたって、注目していた技術や社会の流れなはあったのでしょうか?

ラボ化する社会

成田
まず、テック企業と計算機科学者の技術実装のおかげで、世界がアルゴリズム化しつつありますよね。私たちの見聞きする音楽・映画・ニュースから農家の農作物仕分けに到るまで、人間と社会の過去と現在がデジタルデータ化されて、数学的変換が施される事で未来が決まっていく。

これまで、経済学や統計学、さらに数理モデルを使うような政治学や心理学は「捉えどころのない現実を数式の羅列という箱庭に落とし込んで夢想している自己満足行為」といつもバカにされてきました。

ですが、アルゴリズム化した今日の社会は、どんどん数式の羅列という箱庭に近づいているのです。
で、世の中がアルゴリズム化するということは、世の中という出力を決めている入力が何なのか見えるということで、たとえばどんな物質を入力するとどんな化学反応が出力するか観察できるラボに似てます。この「アルゴリズム・ラボとしての社会」をどう分析すればいいか?に注目していて、サイバーエージェントさんと一緒にやってる共同研究もその一例です。もっと広く言えば、ほとんどの機械学習は自然実験と見ることができます。

さらには、社会を完全な実験室に近づけるにはどうしたらいいか?というのが次に来る問題でしょうね。

安井
実験室でしか使えない概念だけど、世界を実験室にしてしまえば使えるじゃんというイメージですね。
“「アルゴリズムに制御された実験室としての社会」をどう分析すればいいか?”これは非常に面白いテーマですね。企業に所属する、機械学習ではなくデータの分析を専門とするようなデータサイエンティスト/データアナリストの方々にとっても、重要な技術になりそうですね。
一方で、機械学習の都合を優先した社会のアルゴリズム化は、必ずしも”箱庭”と一致するものではないと思います。例えば成田先生との共著論文で扱った内容も、使われているアルゴリズムにある種のランダム性が必要になっていますが、機械学習を学んできた人は、むしろランダム性を持たない方法を利用する事が多いように思えます。
私は共同研究を進めるために、因果推論のメリットを説明して導入するアルゴリズムを変えてもらうような啓蒙活動を社内で定期的に行なっていますが、こういった活動をする方が企業で増えると社会と企業の実験室化が一気に進んで面白い事がいろいろできそうですね。
そんな未来が見え隠れするなか、機械学習により可能になった「短期間で大量に意思決定を繰り返す」状況を、現状の経済学は扱いきれていません。既存の経済学の方法がこのような設定においてもある程度使えるとは思うのですが、どんな部分が足りていないかは非常に興味深いと思います。

必要なのは、弱くて遅くて貧しい者達のための機械学習

成田
「短期間で大量に意思決定を繰り返す状況」が経済学でそんなに考えられてないのは、これまで、経済学者がオフライン世界でローテクな公共政策に対し、主に興味を持ってきたからなんだと思います。

たとえば最近話題の大学政策論議をイメージしてみれば、肥大化した行政組織がノロノロと数年から数十年かけて制度をいじっているわけで、「短期間で大量に意思決定を繰り返す状況」を考えてもあまり意味がないように見えますよね。

足りないのは、速度とスケールが高い前提で作られたウェブ産業発の技術を、オフライン世界のローテク環境でも使える公共政策に落とし込む方法なんだと思います。

似たような問題は、政府や政策だけでなく、実はウェブ・テック産業にもあるという印象です。

世界はAI機械学習バブルの真っ只中ですが、AIバブルの果実は誰のものかといえば、計算力やデータ・実験環境、そしてA+の人材を独占した数人の「強者」(最大手テック企業)のものですよね。それ以外のところには驚くくらい恩恵が届いてない。
数千億円規模の企業でさえ、仕組みが追いつかず強化学習やバンディットの実装など遠い未来の絵空事、という感じの話をよく聞きます。

そうすると、圧倒的な設備・人材投資やユーザー独占なしでも使えるような「弱者」のための武器が求められているのかも。弱くて、遅くて、貧しい者たちのための機械学習。

安井
なるほど、まず現実世界で意思決定の細分化が起きる方が先だという感じでしょうか。サイバーエージェントは新規事業を大量に作る文化なので、ある意味弱者の集合体と言えると思います。そういった状況でも使えるデータ分析・機械学習は求められている技術ですね。

最近だとAutoMLのような技術によって、卓越したエンジニアがいなくとも機械学習が使える世界観が現実的になってきています。こういったソリューションがオフラインの世界にもやってくると面白そうですね。仮想的にこれらの世界観が実現された場合、経済学にはどんな役割や面白さがあると思われますか?

成田
経済学や他の計量社会科学の変で面白いところは
「因果やら反実仮想※やら幸福・厚生やらといった見えないもの、測れないものをデータで見ようとし、数理で測ろうとする」
という無理ゲーに挑んでいるところ。
無理ゲーすぎて今のところすぐに使えて成果が目に見えるような技術にはいたっていない。
ですが、今のAIバブルははじけたあとの未来を反実仮想予測し、ユーザーと社会の幸福をデータで考えるはじめておくための武器にはなるかも。
そして企業と経済学者が交わることで、思考が実装され、経済学者が経済作者になれたらと思います。

安井
おぉ、経済作者。面白そう。
こういった世界観を目指す人が増えると、よりいっそう楽しくなりそうですね。

※反実仮想…事実と反対のことを想定すること

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