技術・デザイン

ロボットは実証実験の先に
人に寄り添う言葉を手にするか?

アドテクとロボットと実証実験と

Profile

  • 鵜口 大志 (うのくち たいし)
    立教大学大学院文学部にて日本近代文学を研究し修士を取得。その後エクスウェア株式会社にて、Pepper の発売当初よりPepper のアプリケーション開発に携わる。2018年8月よりCyberAgent のロボットサービス事業部へジョイン。ソフトバンクロボティクス認定のPepperコミュニティリーダーの一人。著書に「Pepper最新事例に学ぶロボアプリ開発 プレゼンアプリ『ペップレ』に学ぶスマートフォン・サーバー連携編」がある。

  • 西 康太郎 (にし こうたろう)
    北陸先端科学技術大学院大学でHCI(Human Computer Interaction)領域の研究活動を通じ、修士を取得。その後株式会社Speeeにてサーバーサイドエンジニアリングやコールセンター開発を4年ほど経験したのち、2019年1月にCyberAgentのロボットサービス事業部へジョイン。開発に軸足を置きながら全般的な業務を担う。最近DIYの業務が増えたことで東急ハンズに詳しくなった。

実証実験でコミュニケーションロボットの可能性を探っていく

― ロボットサービス事業部の主な活動内容について教えてください。

鵜口:一言でいうと、コミュニケーションロボットを活用した接客サービスの提案や設計、開発を行っており、直近ではその効用を確認したりブラッシュアップするための実証実験に取り組んでいます。

わかりやすいように、これまで行ってきたロボット実証実験の紹介をしますね。まず、三菱地所株式会社さんと提携し、2019年4月に東京・池袋の「サンシャインシティ」でのコミュニケーションロボットの実証実験を開始しました。ここでは、接客現場でのコミュニケーションロボットを活用した接客対応の実験を行いました。

コミュニケーションロボットを活用した接客対応の実証実験を実施

具体的には「サンシャインシティ」地下1階 案内所の混雑解消がメインの目的でした。この実証実験を通じて、コミュニケーションロボットによる来客への効果的な声掛けや対話などの検証も進めました。

西:「サンシャインシティ」では案内所に係の人が常駐していますが、ピーク時にたくさんの利用客が訪れた場合、対応するまでお待たせしてしまうことになっていました。

そんな時、コミュニケーションロボットが案内業務の一部を担うことで、その方々の来場満足度を向上させることができるかもしれません。

鵜口:商業施設で起きているリアルな課題に対して、ロボットサービス事業部がソリューションを提供できたのは良かったですよね。

西:現場の具体的な課題に対して、ロボットで解決できそうなポイントを明確に切り出してしっかり作り込むことで、ロボットによるサービスが来場者の満足度向上に貢献できる。実証実験ではそんな手応えを得られましたね。

鵜口:関連する事例だと、三菱地所グループが運営するホテル「ザ ロイヤルパーク キャンバス 大阪北浜」にコミュニケーションロボットを設置し、こちらも接客対応の一部をロボットが担う実証実験を行う予定です。

ホテルの朝食会場にコミュニケーションロボットを設置し、宿泊客のセルフでの下膳をロボットが呼びかけるという試みです。これは、下膳の習慣に馴染みがない可能性のある海外からの方々にも多言語で対応します。

西:朝食会場にはロボットとの連携を前提としたデジタルサイネージも設置します。貼り紙や従業員による呼びかけではなく、ロボット×サイネージというアプローチをした際に宿泊客が受ける印象はどう変わるのか。下膳行為にどのような影響があるのか。ロボットサービスの今後に反映できそうな知見を得ることも目的として、検証していく予定です。

― 実証実験では、どんな知見が得られているのでしょうか?

西:例えば、実証実験として関わったロボット婚活は「ロボットが話している内容に対して人がどれだけ信頼感を持てるのか」という観点が切り口でした。

AI Lab、ロボットを含む対話エージェントと人間の間で信頼感の醸成へ

鵜口:婚活や出会いの場において「初対面で何を話したらいいのかわからない」という悩みはよくありますよね。

そこで、ユーザーが事前にプロフィール情報を入力しておくことで、苦手な初対面時のコミュニケーションをロボットが代行してくれるというアプローチです。

つまり、出会いから初対面時の会話を、お互いのロボットが本人たちに代わって会話をしてくれて、本人たちはそのロボット同士の会話を聞きながら、お互いを知り理解を深めるということです。

コミュニケーションロボットを導入することで、出会いの場をより円滑にするというソリューションですが、我々ロボットサービス事業部としては「ロボット等を含む対話エージェントに対する信頼感の醸成」という観点の実験でもありました。

西:イベント後のアンケートでは「自分の情報を正しく相手に伝えてくれた時にロボットへの信頼感が増した」「ロボットが相槌を打つタイミングが自分の気持ちとシンクロした時に信頼感が大きく向上した」といった回答が多く見られ、ロボット同士の会話を聞いていたからこそ相手の方への興味がわいたという回答もありました。

その結果「ロボットへの信頼感が人の意思決定に影響を与える」という、様々な場面で活用できそうな知見を得ることができました。

なぜアドテクスタジオでロボット事業をすすめるのか

― 広告配信プロダクトを開発するアドテクスタジオが、ロボット事業に取り組むのはなぜですか?

西:インターネット広告業界は「AI」によって飛躍的に拡大していった経緯があります。例えばAIによる広告の効率的な自動配信や入札。最近では広告クリエイティブの自動生成といった分野が発展しています。

AI産業が大きく広がっていく機運がある中で、近い将来 更に市場が変化した際に、組織として対応していくために、アドテクスタジオではAI Labをはじめとして様々な組織を作り、多岐にわたる視点から技術的な可能性を模索しています。


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鵜口:そうですね。我々ロボットサービス事業部は、アドテクスタジオの全体的な戦略の中に、将来への打ち手の一手としてあるかなと思っています。

AIや機械学習をもとにした対話エージェントのインターフェイスとして、物理的なロボットを用いた実証実験につなげていく。ビジネスにおけるリアルな課題に向き合う中で、得られた知見を対話エージェントのアップデートに還元していくというサイクルを作ろうとしています。

西:将来への打ち手というのはまさにそうで、オンラインとオフラインのシームレス化が加速する一方でサービス業はますます人手不足になっていき、今後は無人店舗で接客するのがロボット店員になり、ネットショッピングでの買い物履歴から、お客さんにおすすめ商品を提案するような将来だってあり得ます。

「サンシャインシティ」や「ホテル」で行ったようなビジネス課題に直結した実証実験での様々な知見が、将来的には無人店舗などに置かれた接客ロボットや対話エージェントがスムーズにお客さんと対話しながら奉仕するという未来につながると思います。

産学連携で取り組むサイバーエージェントのロボット事業

― 鵜口さんは前職からロボット関連の開発をされていたそうですが、サイバーエージェントならではの技術カルチャーなどは感じますか?

鵜口:印象的だったのは、大阪大学やイエール大学などと産学連携をしっかり築いていて、研究開発をしながらしっかりと足場を固めながら、実証実験などで着実に実績を積み上げている組織文化です。

また、前職もロボット関連の開発ですが、同じロボット開発でも方向性がまた違っていて新鮮でした。

前職は「Pepper」に搭載するアプリの自社サービス開発や受託開発を行っていましたが、既存の業務システムとの連携などがメインだったので、設計としてはUXデザインの比重が少なめでした。

やはりチャレンジしがいがあるのは、サービスインした時のユーザーとのインタラクションやその設計、あるいは対話の技術といったものに関して、基礎研究や学術的な知見に基づいた知見を取り入れていくことなんです。

そのため、産学連携や応用研究をベースに足元を固め、実際のビジネス課題に適用することで実証実験を重ねていくサイバーエージェントのアプローチに共感しました。

― 「学術的な知見」をベースにするメリットはなんですか?

鵜口:例えば、AI Labが取り組んでいる対話エージェントの技術であったり、ロボットの視線の動きや人に対する視線の向け方などです。

一問一答の簡単な対話であれば現在のAI技術によってすでに世の中に出回っています。そこから一歩前進して、文脈を背景にした会話や、連続する対話から導き出す提案となってくると、対話エージェントのさらなる技術進歩が必要になってきます。

西:ロボットが人と対話する際、どんなシチュエーションで、どういう人をターゲットに、どんな振る舞いをすれば、スムーズに接客を成立させられるか。部分部分では研究されていますが、まだソリューションとしての大きな事例はありません。学術的な知見を取り入れながら「ちゃんとしたサービス・ウリモノ」にしていくことは、接客ロボットが今後普及していく上で乗り越えなくてはいけない壁だと思っています。

その乗り越えなくてはいけない部分に対しAI Labという研究組織と協力したり、石黒研(大阪大学)と共同でプロジェクトを行ったりと、ビジネスとアカデミックの二つの領域が非常に密にコミュニケーションを取れている環境は魅力的だと私も思います。

―ロボットサービス事業部で働く上で必要な技術や知識はどんなものがあるのでしょうか。

西:技術要素という意味では、僕らも新しく触れることが多いんです。使う対象としてはあらゆるロボットが選択肢に入ってくるのですが、RoBoHoNならAndroidアプリだし、PepperならPepper独自のChoregraphe(コレグラフ)という開発環境があるのですが、Choregrapheが使える人なんてそれこそPepperを扱っている人だけです(笑)。Sota(ソータ)はSotaでまた全然違ってくる。それぞれで開発手法が大きく異なります。

ロボットだけじゃなくて、センサーやカメラといった周辺機器も扱いますし、必要ならDIYもやります。ロボットというと組み込み系だと思われがちですが、Webサーバも画像処理もやりますし、ElectronやDockerやCI、プロビジョニングツールなども使いつつ、なんとかモダンな開発に寄せられるように努力しています。

そのため、特定の技術に強いというよりは、新しいチャレンジに意欲的に取り組めることが重要かもしれません。大事なのはロボットに触れた人にどのような体験をもたらせるかなので、使う手段の選択肢は無限にとれるべきです。

鵜口:新しいロボットが出てきた当初は特にそうなんですが、とにかく情報が少ないんです。極端な話、わからないことをググっても全然情報が見つからないということが多い。似たような事例はあっても全く同じ事例はないので、そこを何とか試行錯誤しつつ突破するための技術的好奇心が必要かなと思います。

― 最後に、お二人がこれから挑戦したいことを教えてください。

西:コミュニケーションロボットの存在は、人がコンピュータに抱く心理的な距離をよりぐっと近づけてくれる可能性を秘めていると思っています。ロボットと人が触れ合える環境を増やしていくことで、人々がコンピュータテクノロジーに対して抱く印象や感情にもう一歩踏み込めるんじゃないかと。この仕事を通じてそんなことを実現するのが一つの夢ですね。

もう一つ、直近の現実的な話をすると、ロボットサービスの開発は動作チェックがとにかく大変で、もっと楽に開発を回していける環境を早く整えないといけないなと思います(笑)。

ロボットサービス開発プロセスのベストプラクティスを発見するというのが、一つの大きな挑戦ですね。

鵜口:一言でいうと、「テクノロジーに苦手意識がある人でも使えるテクノロジーを提供する」ですね。

以前、ある施設に Pepper を設置していた時に、Pepper をにこにこしながら触ってくれている方がいて、「この子だったら私でも使える」って言ってくれたんですね。

その方に少し話を聞いてみると、PCは難しそうだから触れないけど、ロボットは話しかけたりしても反応があるから大丈夫そう、と。そこで提供している Pepper の機能自体は、以前からその施設のタッチパネルやPCでも提供しているものだったんですが、ロボットが応答するだけで「難しそうだから」という壁を簡単に超えちゃったんですよ。私の中で、あるサービスを提供するときの選択肢としてロボットを選ぶときの理由の一つはこれだな、と妙に納得したのを覚えています。

私は、新しく登場する便利なテクノロジーを多くの人に使ってもらいたいな、と漠然と考えていたんですが、一方でそのテクノロジーの良さは触れてもらわないことにはなかなか伝わらない。「よくわからないから」「難しそうだから」というネガティブな印象をいかに無くして、多くの人に提供していけるか、ということを追求していきたいな、と思っています。

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