Interview

常にサムシング・ニューを探し続ける
「AbemaTV」でテレビとネットを
新次元に引き上げる

今年、創立20周年を迎えたサイバーエージェント。この20年間、たくさんの方々のお力を借りて、試行錯誤しながら事業拡大をしてきました。今回のコンテンツでは、日頃よりお付き合いのある社外の方々に、創業当時の秘話や今後のサイバーエージェントに期待することまで余すことなく語っていただきます。第七弾は、株式会社テレビ朝日ホールディングス 代表取締役会長兼CEO  早河 洋氏です。
※「CyberAgent20周年誌」より転載

Profile

  • 早河 洋 (はやかわ・ひろし)
    株式会社テレビ朝日ホールディングス
    代表取締役会長兼CEO

    1944年1月1日、山梨県生まれ。中央大学法学部卒業後、67年日本教育テレビ(現テレビ朝日)入社、1999年取締役、2001年常務取締役、2005年代表取締役専務、2007年代表取締役副社長などを経て、2009年に代表取締役社長に就任。2014年にテレビ朝日ホールディングス代表取締役会長兼CEOに就任。AbemaTV取締役会長も務める。

何か重大なことを言われた気がした六本木の夜

あれは確か、藤田社長と出会って丸6年になる、2014年秋のことでした。六本木にあるインターコンチネンタルホテル近くの日本料理店で、テレビ朝日側3人と藤田社長の4人で会食をしまして。いつものように話がはずみお酒もすすむ中で、ちょっと私も飲み過ぎていまして、明解には受け止められなかったんですけれど、藤田社長が何となく「インターネット絡みのビジネスを一緒にやりませんか」というようなことを言ったような気がする、と家に帰る途中で気づきました(笑)。そのときはいまみたいなインターネットテレビとか、そういう具体論はなくて、SVOD(定額制ビデオオンデマンド)の動画配信とか、そういう話だったような気がします。漠然としたものだけれど、何か骨太な提案だったなというのは心に残って。
それで翌日、同席していた人間に「藤田さんが何か重大なことを言っていたと思うんだけれど、藤田さんに確認してほしい」と伝えました。そうしたら「合弁事業みたいな趣旨の話です」と。もう二つ返事で「いいですよ、やりましょう」と言って、そこから、トントン拍子で話が進んでいきました。

藤田社長は、2013年にテレビ朝日の番組審議委員になってもらったときから、「テレビ業界やテレビ朝日が変わらなきゃいけないんじゃないか」という認識を持ってくれていたと思うんですね。それにそれまでも、テレビ朝日とサイバーエージェントは様々な協業をしてきました。「アメーバピグ」の中に「テレ朝ランド」がつくられたり、深夜ドラマとサイバーエージェントのゲームを連携したりといった事業も具体化しました。
だから、AbemaTV(アベマティーヴィー)につながる提案があった時点で、我々にも成功体験があったし、何よりサイバーエージェントの素晴らしい能力やこれまで創りあげてきているものを知っていたわけです。そういう会社が声を掛けてくれるというのは大変に有り難いことですし、サイバーエージェントと組むことによってテレビそのものも何か新しい次元にいける可能性があるのかなと直感的に感じました。

「外との連携が大事」という意識

ネット業界はまさにサイバーエージェントの歩みと一緒で90年代から急速に成長してきました。一方で、テレビ業界はシュリンクし始めていました。
「HUT(総世帯視聴率)」という指標がありますが、1980年前後がもっとも高くて、70%台ぐらい。それがいまはゴールデンタイムで60%ちょっとで、プライムタイムでは60%を割っています。全盛期に比べると10~15%程度減少していることになります。

私が社長に就いたのは2009年6月ですが、自分の責任としてこうした流れを何とか食い止め、テレビ業界を元気づかせなければならないと感じていました。そのためには、やはり成長著しいインターネットの世界と何か接点を持つべきではないか、外との連携は非常に大事だ、という意識が当初からありました。そうした思いもあって、藤田社長とも何度も会うようになりました。

サイバーエージェントはしなやかさが原動力

サイバーエージェントという企業には、何よりも変わらぬ若さを感じます。設立からわずか20年で売上高が4000億円。インターネット広告業界ではトップランナーであり続け、成長性も維持している。しかも、その短期間にいろいろな浮沈を経験されている。お会いする社員の方は紳士淑女で、内に秘めた事業マインドが非常に高いです。
また、若い人が非常に仕事をしやすい組織だなとも感じます。サイバーエージェントは終身雇用制ですよね。となると、どこか保守的な感じがするはずですが、実力主義と適材適所でうまく配置していて、かつ社員の活躍を役員たちが包容力を持って見守っている。元々の性分である責任感がさらに強くなって、個々人に、目的に向かっていくスピード感が増す。そのしなやかさが若い人のやる気を加速させているのではないかと思います。
20周年ということで、ちょっと褒め過ぎでしょうか(笑)。

私自身を振り返ると、社会人になりたての20~30代は、報道の世界で新しい表現を創造し、プロになることを意識して仕事をしていました。プロデューサーや局長を担当するようになった40~50代は、自局の戦力を整え他局に勝つため視聴率を上げることに全力を挙げました。社長、会長になった60~70代は万年4位を脱却し、トップを目指すという意識を持ち、事実として2012年、13年の視聴率はトップレベルに到達しました。いま、視聴率2位、広告収入2位ですが、さらに上を目指すつもりです。

サイバーエージェントは創立20周年ですが、もっともっと夢は広がります。それを実現するには、社員の〝情熱〟がポイントです。いま現在の熱き心を失わない限り、更なる成長が可能だと思います。

インターネットというテクノロジーの中にテレビがある

私は、2016年1月の年頭挨拶で「テレビの転換期や過渡期というのはもう通り過ぎている。いまはインターネットというテクノロジーの中にテレビがある。そういう認識で仕事をしなければならない」といった趣旨の言葉を全社員に語りかけましたが、その認識に大きな変化はありません。
テレビ受像機そのものを持たない、買わない人が若い層には増えている。社会構造みたいなものが変化した結果、「テレビ離れ」が起きているといろんなところで声高に言われています。ただし、私は「受像機離れ」が起きているだけで、視聴者がコンテンツから離れたわけじゃないと思っています。

つまり、スマホやタブレットといったデバイスが増えて、自分の好きなときに好きな番組をあたかも自分が編成局長のように選んで見られる時代になった。だけど、ひとことで「テレビ離れ」と括れる話でもなく、コンテンツや映像の送出という部分は、基本的にはそんなに変わってないと思っています。
実際に、AbemaTVのコンテンツも、どこか既視感があると言いますか、基本的にはテレビ番組のつくり方や、手法に通じるところがある。だから、伝送路は変われど、インターネットでのビジネス展開にも力を入れていけば、若干はシュリンクする部分はあっても、生き残っていけるという感覚です。

「サムシング・ニュー」を続けることが大事

そもそも、私はずっと何か新しいことをやろうと意識してきました。ただし、すべてを新しく変える「エブリシング・ニュー」ではなく、「サムシング・ニュー」を続けることが大事だと思っています。
「すべてを新しくしようとすると、視聴者とのずれが生じる。だから何か新しいことを付加し続けていくというのがテレビなんだ」と話していたNHK出身のプロデューサーがいましたが、まったく同じ考えですね。

「中学生でもわかる」をコンセプトに、私が初代プロデューサーとなった1985年放送開始の『ニュースステーション』で、事件現場をスタジオに再現したのも、新しい挑戦でした。例えば、法廷のシーンをリアルに再現しましたし、同様にホワイトハウスの大統領執務室をつくったこともあります。フィリピンの元上院議員のアキノ氏が飛行機内から連行され、タラップを降りたところで暗殺されたときは、実際の座席をスタジオに並べて機内の様子を再現しました。
また、いまでこそ各局が後に続いていますが、夕方のニュース番組を最初に2時間化したのも私です。

ただし、全部が革命的に新しいわけではない。やってきたことは、ニュースという本流は変えずに、「実はこれまでやってなかったね」という何か新しい要素を付加してきたのです。それこそ「サムシング・ニュー」です。
もちろんすべて成功するわけではなく、失敗することもあります。そういうときは、やけ酒を飲むときもありますよ(笑)。そして次のアイデアを、こんちくしょうと思って考えます。思惑や夢、理念とずれて失敗することは少なくないですし、すべてを当てるプロデューサーなんて誰もいませんから。そして、放送の場合、失敗は取り返しがつきませんので、成功確率を上げるしかありません。

ただ、例えば視聴率が一桁台で、もう少しで10%に乗る手前で編成に打ち切られる場合もあれば、一桁台でずっと我慢して、数年後に花開くこともあります。ニュースステーションは後者で、実際に、番組開始当初は、私がプロデューサーを解任されてもおかしくない数字でした。
夕方のニュースを2時間化した直後の半年も、視聴率3%程度が続き低迷していました。それまで、17時台は、ドラマの再放送をやっていて、10%ぐらいは取っていたので、営業から石が飛んできそうな思いをしたのを覚えています。それでも、ぐっとこらえて我慢した。そうしたら、結果が出ました。
ですから、「サムシング・ニュー」の企画というのは、最初は理解されないことも多いのですが、自分自身も、それから上司も会社も我慢するチカラが問われるのだと思います。

「72時間ホンネテレビ」へのホンネ

AbemaTVも同様に、インターネットテレビならではの「サムシング・ニュー」を見つけ、我慢していくことが大事なのではないかと考えています。それを見つけられないと、「テレビと変わらないじゃないか」という話になってしまいますので。
幸いに、麻雀や将棋といった地上波テレビにはないコンテンツが一定数に受け入れられています。『亀田興毅に勝ったら1000万円』や『72時間ホンネテレビ』なども、きわめて「インターネットテレビ」的な企画だと思います。全部が新しいわけではない。地上波テレビの既視感みたいなものがどこかにありながらも、ちゃんと「サムシング・ニュー」になっている。面白いじゃないですか。

そうした番組には、一人でも多くの視聴者を増やしたいんだ、何か風穴を開けて、AbemaTVの存在感をアピールし、AbemaTVのターニングポイントになるであろう目標の週間視聴者数1000万人に向かっていくんだ、というパッションも感じます。そういうアクセントを付けたネットならではの、地上波ではできない試みをするということへの抵抗感は、私にはまったくありません。
AbemaTVには、テレビ朝日からバラエティー系やニュース系のスタッフが多数、出向していますが、彼ら自身にも、テレビではできないことができている、という面白さがあるようです。

「AbemaTV」は放送と通信融合の新たな具体像になる!

次なる20年では、サイバーエージェントとテレビ朝日の協業が、さらに大きく進化していくかもしれません。
AbemaTVは開設以来、AbemaNewsチャンネルをつくり24時間報道番組を放送し、2017年からはオリジナルドラマやオリジナルバラエティー番組も制作してきました。2018年5月には、テレビ朝日で過去に放送された伝説のバラエティー番組オリジナル最新作や、現在放送中の人気番組の完全版を毎週配信する『バラエティーステーションpresented by テレ朝』を新設し、さらに連携を強めています。

2020年の東京五輪が終わると、シンクタンクの予想では、日本経済の成長性が高いという予想はないんですね。我々の業界は、少子高齢化が進み、地方経済が縮小していくと、設立してから年月が浅い「平成新局」の経営が圧迫される可能性があり、不測の事態があったら、全国ネットワークができなくなる事態になります。こうした中でNHKがいま、インターネット常時同時配信を進めようとしています。しかし民放キー局が常時同時配信を行うと、地方局の経営を圧迫するおそれがあり、それには我々は反対しているんです。いま起こっていることは、見方を変えると、伝送路がインターネットにも拡大し、テレビ受像機という装置自体が伝送路の隔てなく映像コンテンツを見る装置に変質していく可能性があります。よく言えば、ジョイントしていくということですね。

さて、注目されているのは、テレビ朝日とAbemaTVは、コンテンツ制作で協力しているように、放送そのものをAbemaTVでやれるのではないか、ということです。AbemaTVにはいっぱいチャンネルがあり、その中の一つに入れることも可能は可能です。ただしそうすると今度は、地上波ネットワークが影響を受けてしまいますから(笑)。どういうふうに組み合わせていくかっていうのは、非常に面白い課題です。
将来を見通したとき、テレビ朝日とサイバーエージェントの取り組みは、非常に面白い、テレビ放送と通信の融合の新たな具体像になっていくと考えています。ぜひ期待してください。


*1 SVOD(Subscription Video on Demand) 定額制ビデオオンデマンド 単位期間ごとに所定の料金を支払い、対象期間中は映像コンテンツを見放題(好きなだけ視聴できる)という種類のコンテンツ配信サービスのこと。

*2 HUT(Households Using Television)総世帯視聴率 世帯視聴率調査でチャンネルに関係なくテレビ放送中の番組を見ていた世帯の数または割合。通常、全調査世帯に占める比率をHUTと呼ぶ。視聴率データの参考数値として発表されている。


取材・執筆 井上理

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