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上場できたのは俺のおかげ
機を見ている次のビジネスモデルは何だ

今年、創立20周年を迎えたサイバーエージェント。この20年間、たくさんの方々のお力を借りて、試行錯誤しながら事業拡大をしてきました。今回のコンテンツでは、日頃よりお付き合いのある社外の方々に、創業当時の秘話や今後のサイバーエージェントに期待することまで余すことなく語っていただきます。第五弾は、実業家の堀江 貴文氏です。
※「CyberAgent20周年誌」より転載

Profile

  • 堀江 貴文 (ほりえ・たかふみ)
    実業家

    1972年、福岡県生まれ。現在はロケットエンジン開発や、予防医療普及協会として予防医療を啓蒙するなど様々な分野で活動する。会員制オンラインサロン『堀江貴文イノベーション大学校(HIU)』では、2,000名近い会員とともに多彩なプロジェクトを展開している。著書に『ゼロ』『多動力』『自分のことだけ考える。』ほか多数。その他詳細は horiemon.com

藤田君のIT初心者メールになぜか心が動いた

藤田君は20年もよくやっていますね、社長を。すごいですよ。舵取りが大変だろうな、ストレス溜まるんだろうな、と思いながら見ています。
彼との出会いは20年前、まさにサイバーエージェントの創業期です。彼が会社をつくり、まずはクリック保証型広告「バリュークリック」の営業代行をやっていたのですが、自分たちで独自商品をつくったほうが利益率が上がると考え、自社で「サイバークリック」を企画して、開発も自社でやっていたようなんです。
ただ結局、完成しなくて、リリースが間に合わない、やばい、みたいな状況のときに、藤田君からいきなり僕のところにメールがきました。もともと、藤田君が新卒で1年働いていたインテリジェンス時代に、うち(当時の株式会社オン・ザ・エッヂ)がつくったシステムを営業で売っていたらしく、うちや僕のことは知っていたようでした。でも面識はなくて、本当にもう、「ザ・IT初心者」のようなメールがきまして(笑)。
全角や半角の使い方もままならない感じで、そういうインテリジェンス時代の前置きも何もなくて、この人、ITに詳しくない営業畑の人なんだろうなという印象でした。ふつうなら会わないのに、そのときはなぜか会うことにしたんですよね。メールの行間から何かしら感じるものがあったのかもしれないです(笑)。

オン・ザ・エッヂ以外に選択肢はなかった

それでうちの会社に3人で来て、「クリック保証型広告のバリュークリックみたいなシステムをつくりたい」「リリース予定まで1か月ぐらいしかない」みたいなことを言われて。ちょうど僕も広告システムみたいなものをつくりたかったので、その日のうちに「ああ、できますよ」と答えて。3週間後には、広告を表示するフロントエンド部分が動くプロトタイプを完成させて、裏側の集計システムなどは後からブラッシュアップしていきました。それが「サイバークリック」です。

藤田君としては、とにかくこれがなかったら商売にならない。当時の状況を考えると、僕以外の選択肢はおそらくなかったと思います。
PCサーバーのOSは「FreeBSD」にしました。「Linux」よりネットワークの処理能力が高いので。サーバーを組み立てるところから始めて、フロントの広告配信に特化したサーバーを10~20台、並列に並べて、高速表示ができるようにしました。当時の競合のサービスより断然速かったと思います。バリュークリックなんか激遅でしたから。

いまの「AWS(アマゾン ウェブ サービス)」のようなクラウドサービスはもちろんないし、そもそもどこのバックボーンが速くて、どういうサーバーを使って、どういうネットワーク構成にしたらいいか、といったことを判断して最適化できるエンジニアは、ほとんどいなかった。とにかく、あのコストで、あのクオリティを実現できたのは、たぶんうちだけだったと思います。
もし、ITゼネコンみたいなところに依頼していたら、商売として成立するかどうかを考えてくれる人なんかいないので、仕組みはできたかもしれないけど、収益性は悪かったはずです。そうなっていたら、サイバーエージェントも、たぶん上場なんかできてないと思います。だから、サイバーエージェントが上場できたのはうちのおかげとも言えるかもしれない(笑)。
僕からしてみたら、もっと世の中にすごい人たちがいるはずだと思っていたんだけれど、そうでもなかったということ。当時はもう一生懸命で、周りを見る余裕なんかなかったけれど、いま、振り返ると「俺、けっこうちゃんとしていたな」と思います。

「あるあるネット」

これはたらればの話ですけれど、もっとしっかりやっておけばよかったな、と思うのが、サイバークリックの次に僕と藤田君で企画した「あるあるネット」というサービス。
当時、「GoTo.com」というキーワード広告のサービスが米国でリリースされて、その後、オーバーチュアという会社になって、やがてGoogleも出てきて、検索連動型広告というやつがぶわーっと広がっていくわけです。その一番最初のGoTo.comが始まってから、わずか1か月後ぐらいにもう、プロトタイプをつくったんです。Googleができたのが1998年ですからね。それと同じ時期につくりました。
でも、当時の僕には何か変なコンプレックスがあったんでしょうね。プログラム的にものすごく速い検索エンジンをつくらなければいけない、もっとプログラムコードをエレガントに書かなきゃいけない、みたいなことを考え過ぎたんですよね。それで、自滅したというか。
プログラマーとして二流だと勝手に自己分析して、プログラムのパフォーマンスを求め過ぎて、逆にサーバーの並列化の部分をおざなりにしてしまったところがあって、検索自体のパフォーマンスがあまり出ず、商品として売れなかったんです。
それで、お互い上場するにあたって、事業を整理しましょうみたいな話になり、やめちゃったんですよ。でも、いま考えれば上場で調達した資金を使って、さらに設備を増強して、検索エンジンでいくぞ、みたいにすればよかったのかもしれない。まあ、当時の自分たちの頭でそこまで思い切れたかどうかという話なんですけれど。

つまらなそうなやつに会ったことがない

藤田君と僕は、すごくタイプが違います。何なんだろう、あの感じ。ヌエのような感じですよね。すっといるみたいな。麻雀とか将棋をやっているとき、ちょっと引いて冷静に見ています、みたいな顔をしているじゃないですか。そういうの、僕はできないんですよね。
僕は何かすごい技術やムーブメントがあると、それに夢中になっちゃう。それにまつわる人間関係や金勘定なんかが、ぶっちゃけどうでもいいとなって、とりあえずやっちゃおうと。たぶん、それが僕の動くドライバーになっているけれど、藤田君は違うんじゃないかなと思います。
サイバーエージェントの社員に関しては、とにかく楽しく仕事をしているという印象ですね。仕事をつまらなそうにやっているやつには、会ったことがない。それに、こういう業界にしては、意外と長くいる人が多いじゃないですか。まあ、すぐ辞めちゃうやつもいますけれど、いずれにしても何か、楽しそうというか。辞めた人もどこへ行っても通用するというか、その後にダメになったという話もあまり聞かないですよね。

グローバルでどう勝つのか気になる

これから先のサイバーエージェントは、どうするんでしょうかね。別に僕は外野なのでいいんですけれど、ドメスティックでいくのか、それともグローバルにいくのか、気になります。
「AbemaTV (アベマティーヴィー)」にしても、このままドメスティックのマーケットを相手にどこまで投資できるのかというのは、すごく気になるところではあります、アナリスト的な感じでいうと。
収益性や安定感を考えれば、ドメスティックに徹するという考え方もあると思うんですよ。マクロのマーケットは縮小していくけれど、まだインターネット広告は伸びていくし、その中でパイを増やしていく道を目指すのも、それはそれで一つの戦略だと考えられます。
ただ、チャンスがあれば世界を狙うみたいな戦略を打ち出してもいいとは思いますよね。僕なんかもう、最初からグローバルなことしか考えていないので。
とはいえ、この先、グローバルに打って出るとしても、現状のコンテンツのつくり方は明らかにドメスティック向き。経験がなきゃつくれないってわけじゃないと思いますけれど、グローバルなコンテンツをつくった経験もそんなに多くないし、テレビ朝日と組んでいるけれども、日本のテレビ局ってグローバルな感覚は不足していると感じるので、そこはどうなんだろうなと。

そこを解決したとしても、すでにグローバルのコンテンツ産業では、もうNetflixやAmazon、Appleが何千億円って投下しているわけで、どうやって勝つのかなという気はするんですよね。それに、グローバルな世界って、アイデア一発の新しいビジネスモデルであっても、それを後発の大手が物量作戦ですぐにキャッチアップしちゃう。
アパレルの世界もまさにそれで、2000年代は日本の「109」ブランドがかなりパワーを持って、アジアを席巻しつつあった。やっていたことの基本は、パリコレとかに出ているラグジュアリーブランドのパクりというか、アレンジみたいなこと。いま、勢いをなくしちゃっているのは、そこで大規模な投資をしなかったからなんですね。
一方で、物量作戦でそれを丸パクりした「ZARA」とかがいま、世界を席巻しています。109ブランドが3か月かかってやっていたことを3週間でやっちゃうみたいな。ITやコンテンツの世界の構図も、それとまったく一緒ですからね。
そういう意味では、サイバーエージェントの次のビジネスモデルが見えてこないというか。考えているんだと思うけれど、まだ僕の目には見えてこない。もしかしたら、機を見ているのかもしれないですけどね。冷静な将棋の棋士みたいに。


*1 クリック保証型広告
インターネット広告の掲載・課金方法のひとつ。広告のクリック数が一定回数に達するまで掲載を行う。

*2 OS(Operating  System)オペレーティング・システム
プログラムの実行を制御するためのソフトウェア。代表的なものに「Windows」や「Linux」がある。

*3 AWS(Amazon Web Services)アマゾン ウェブ サービス
Amazonが提供するクラウドコンピューティングサービスの名称。クラウドコンピューティングサービスを利用することで、サーバーやデータベースなどのインフラを必要なときに必要な分だけ利用することが可能となる。

*4 キーワード広告
検索連動型広告のこと。「Yahoo! JAPAN」や「Google」などの検索エンジンでキーワードを入力すると、入力したキーワードに連動して表示される広告。

取材・執筆 井上理

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