プレスリリース

AI Lab、データマイニング分野のトップカンファレンス「CIKM 2025」にて2本の論文採択

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株式会社サイバーエージェント(本社:東京都渋谷区、代表取締役:藤田晋、東証プライム市場:証券コード4751)は、人工知能技術の研究開発組織「AI Lab」に所属する研究員の小比田涼介、森村哲郎、森脇大輔※1および慶應義塾大学の岡達志教授らによる論文2本が、データマイニングの国際会議「CIKM 2025」※2に採択されたことをお知らせいたします。

「CIKM」は世界中の研究者によって毎年開催される国際会議で、データマイニング分野では「KDD」※3「WSDM」※4などと並び権威のある学会の1つです。
2025年度の本会議における採択率はおよそ27%と難易度が高く、この度採択された論文は2025年11月に韓国・ソウルで開催される「CIKM 2025」での発表を予定しています。

■研究背景と論文概要

AI LabのNLPチームでは、LLM(大規模言語モデル)をはじめとする自然言語処理技術の実用化に取り組んでいます。特に、人間が日常的な言葉で指示するだけでAIがデータ分析を実行できる技術は、幅広い分野での活用が期待されています。しかし、この技術の精度や応答速度は、「AI自体の賢さ」だけでなく、裏側にある「データベースの構造」という見過ごされがちな要因に大きく左右されます。データベースの設計が不適切だと、たとえ最新のLLMであっても、AIが誤った計算をしたり、複雑な質問に回答できなくなったりする原因となります。そこで今回採択された論文では、データベース設計の中核技術である「正規化」(データの重複をなくし、整合性を高める手法)に着目しました。


Exploring Database Normalization Effect on SQL Generation
著者:小比田涼介
本研究はデータの整合性とクエリ効率に影響する「正規化」の観点に焦点を当て、GPT・Gemini・ Claudeなど主要なLLMを対象に、正規化のレベルを変えた複数のデータベースで、AIが生成する分析コード(SQL)の性能がどう変化するかを網羅的に検証しました。その結果、単純な検索と複雑な集計では最適な設計が異なるという明確なトレードオフがあることを示しました。この知見に基づき、実システムを構築する上で役立つ具体的な設計指針を提示します。



AI LabのRLチームでは、強化学習を軸に最適な意思決定戦略の学習に取り組んでいます。広告配信の効果検証やクリエイティブ選択の高度化、そして大規模言語モデル(LLM)の制御技術などが主な対象です。なかでも広告領域では「本当に効果があったのか」を正しく評価することが事業成果に直結しますが、競合の施策や季節性、SNSのトレンドなど観測が難しい要因が影響し、真の効果の見極めは容易ではありません。
今回採択された論文では、ECサイトの広告分析で得た知見をもとに、こうした「見えない要因」を考慮した因果効果推定の新手法を提案しました。


Latent Variable Modeling for Robust Causal Effect Estimation
著者:森村哲郎(サイバーエージェント AI Lab)・岡達志(慶應義塾大学)・鈴木悠悟(横浜市立大学※5)・森脇大輔(サイバーエージェント AI Lab※1
観測データには把握しきれない「見えない要因」が存在し、施策の効果評価を難しくします。本研究では、そうした要因を取り込む新しい分析手法「Latent DML」を開発しました。要因が結果だけに働く場合と、施策と結果の両方に働く場合の2つのケースに対応し、従来手法に比べて推定精度の向上を確認しました。これにより、広告費用対効果(ROAS)の一層正確な評価やマーケティング投資の最適化など、より確かな意思決定の実現に貢献します。

■今後

Exploring Database Normalization Effect on SQL Generation」で得られた知見は、今後当社が LLMを活用したデータ分析機能の開発を視野に入れる際に、有用な技術指針となることが期待されます。これにより、データベース設計の試行錯誤を減らし、AIの性能を安定して引き出すことで、着実なサービス改善を目指します。

また、「Latent Variable Modeling for Robust Causal Effect Estimation」に関する研究成果は、当社の広告事業における効果測定の高度化や、「極シリーズ」での広告運用最適化への活用が期待されます。特にA/Bテストが困難な状況での施策評価や、広告クリエイティブの真の効果測定において重要な役割を果たします。

今後も「AI Lab」では高精度なLLMの開発や、より効果の高い広告制作と運用の実現を目指し、領域を超えた研究開発を進めてまいります。



※1 所属は論文採択当時、現在は株式会社タップルに所属
※2 「CIKM」The 34th ACM International Conference on Information and Knowledge Management
※3 「KDD」ACM SIGKDD Conference on Knowledge Discovery and Data Mining
※4 「WSDM」The 19th ACM International Conference on Web Search and Data Mining
※5 所属はリサーチインターンシップ参加当時、2022/11/09から2024/03/27までリサーチインターンシップに参加。