プレスリリース

AI Lab、ロボティクス分野のトップカンファレンス「IROS」にて共著論文採択 ‐人型ロボット vs スマートスピーカー、ホテル居室でのおもてなし勝負を考察 ‐

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株式会社サイバーエージェント(本社:東京都渋谷区、代表取締役社長:藤田晋、東証一部上場:証券コード4751)は、大阪大学と共同で発足した先端知能システム共同研究講座の特任助教(常勤) 中西惇也氏と、人工知能技術の研究開発組織「AI Lab」研究員の馬場惇らによる共著論文が、ロボティクス分野の国際会議「IROS 2020」(IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems ※1)に採択されたことをお知らせいたします。

「IROS」は世界中の様々な研究者が一堂に集い毎年開催される国際会議で、「ICRA」「RSS」「HRI」(※2)などと並び、ロボティクス分野で権威あるトップカンファレンスの一つです。この度「AI Lab」から採択された論文は、2020年10月にオンラインで開催される「IROS 2020」で発表を行います。 

■研究背景
近年のサービス業における人材不足やインバウンドの増加を背景として、2018年3月よりサイバーエージェント、大阪大学基礎工学研究科、東急不動産ホールディングスの3社にて、人間の業務代行だけでなく「人をもてなし、満足度を向上させるロボット」を実現する共同研究プロジェクト(※3)を進めてまいりました。

人間の業務を代行する手段の1つに、ホテルにおけるパーソナルアシスタントとしてスマートスピーカーの活用が進んでおり、主にホテルの設備やサービスなどに関する情報検索や、居室内家電の操作を行うための音声端末として利用され、ホテル利用者の利便性を向上する可能性を期待されています。一方で、ホテル利用者の満足度を向上させるためには、ホテル側からの積極的な気配りや働きかけが不可欠です。しかし、プライベートな空間であるホテル居室内において、スマートスピーカーやロボットが、自発的に利用者へ対話やサービス提供を行うことが、利用者にどのような影響・印象を与えるのかはこれまで調査されていませんでした。

■論文の概要
このような背景のもと、今回採択された共著論文「Smart Speaker vs. Social Robot in a Case of Hotel Room※4」では、ホテル居室内にスマートスピーカーや小型のヒューマノイドロボットを設置し、これらのパーソナルアシスタントが利用者に対して積極的な情報サービスの提供や対話を行うことにおいて「サービス提供を行うパーソナルアシスタントの見た目」は、人に対しどのような心理的影響を与えるかを考察しました。

検証にあたり、2019年9月にこの論文のもととなる実証実験を東急リゾーツ&ステイ株式会社の運営する東急ステイ門前仲町の居室にて実施いたしました。実証実験では居室内に、パーソナルアシスタントとして「スマートスピーカー」または「ヒューマノイドロボット」を設置し、あらかじめ実験参加許諾を得たホテル利用者60名に対して対話サービスを提供しました。

ホテル利用者はそれぞれ「スマートスピーカー条件」もしくは「ヒューマノイドロボット条件」の部屋に割り振られ、1泊のホテル滞在中にホテル情報の提供や雑談、周辺施設の推薦などの対話サービスをスマートスピーカーやロボットから受けていただきました。スマートスピーカー、ロボットともに同じアルゴリズムによって自律的に制御されており、見た目のみが異なる状態で、人がパーソナルアシスタントによるサービス提供をどのように感じるか、その影響を比較しています。

▼ホテル居室内に設置されたスマートスピーカーとヒューマノイドロボット Sota® (ソータ) ※5
主な実験結果として、下記の差異が確認できました。
  • ・ヒューマノイドロボット条件の方が、全体の会話量が多く、中でも短い雑談や周辺情報に関する会話が多い
     
  • ・ヒューマノイドロボット条件の方が、サービスに対する満足度(再び利用したい意向や他者に勧めたい意向)が高い
     
  • ・ヒューマノイドロボット条件では、あたたかさや楽しさに加え、寂しくないと感じる人が多い
     
  • ・ヒューマノイドロボット条件では、アシスタントが推薦した周辺の店舗に「実際に行った・行きたいと思った」と回答する割合が多い傾向がある
     
  • ・スピーカー条件の利用者の50%はアシスタントの自発的な発話を禁止する(ヒューマノイドロボット条件では13%)
※論文ではインタラクションの評価に関する一部結果のみ掲載

これら実験結果により、ホテル居室内でのサービス提供では「人間に近い見た目をしていること」が、利用者にポジティブな影響を与えることを示しました。

これは、「人らしさを感じやすい見た目をしたパーソナルアシスタントのほうが、居室内においてより高い満足度を実現できる」ことを示しているだけでなく、「居室内というプライベートな空間においても、人らしい見た目のパーソナルアシスタントであれば積極的なサービス提供が利用者に許容される」という可能性を明らかにしており、学術貢献と実応用の両側面において重要な発見であったと考えています。


■広告展開への期待と今後
人と信頼を築けるパーソナルアシスタントの実現は、「心地よいおもてなしによる利用者の満足度向上」だけでなく、その信頼関係の上に成り立つ情報推薦によって「ローカルな特性を持つ広告媒体の実現」にも貢献が期待されます。今回発見した知見をベースに、さらに居室内において強力に信頼関係を築けるパーソナルアシスタントを探索する実証実験を、今後も積極的に実施予定です。

「AI Lab」は今後も、大学・学術機関との産学連携を強化しながら様々な技術課題に取組むとともに、「人とロボットが共生できる世界」を目指し、より一層ロボットを含めた対話エージェントによる接客対話技術の研究開発に努めてまいります。


■先端知能システム(サイバーエージェント)共同研究講座 とは
2017年4月1日より発足した、大阪大学基礎工学研究科との共同研究講座(共同研究者:同大 石黒浩教授)です。人と社会において調和的に関わることができる、ロボットを含めた対話エージェントの実現に向けた基礎技術の確立及び、人の持つ対話能力に関する科学的な知見の獲得を目指しています。


※1 「IROS」IEEE/RSJ International Conference on Intelligent Robots and Systems
※2「ICRA」 IEEE International Conference on Robotics and Automation
   「RSS」Robotics: Science and Systems
   「HRI」ACM/IEEE International Conference on Human-Robot Interaction
※3 関連リリース
人工知能技術の研究開発組織「AI Lab」、大阪大学基礎工学研究科 石黒教授との共同研究講座にて、東急不動産ホールディングスとの実証実験を実施~ 新しい「おもてなし」と新しい「広告媒体」の実現へ ~
※4 Junya Nakanishi, Jun Baba, Itaru Kuramoto, Kohei Ogawa, Yuichiro Yoshikawa, Hiroshi Ishiguro, “Smart Speaker vs. Social Robot in a Case of Hotel Room,” IROS 2020.
※5 「Sota®(ソータ)」はヴイストン株式会社の登録商標です。